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けっしん

最上義光。

出羽国(山形県)の大名。

父、義守と家督相続の際に争い、最上家を継ぐ。伊達家とは不仲であるものの、伊達政宗は甥にあたる。

上杉家、伊達家とも戦い活躍。豊臣家に従属し、娘の駒姫が豊臣秀次の側室候補となるも、秀次の切腹事件の際に駒姫も処刑されてしまう。

関ヶ原の戦いでは、徳川方の東軍につき、上杉家と対峙する。

武勇に優れるだけでなく、戦略家としての一面を持つ。好物は鮭とのこと。



◇        ◇


「それでは、義昌殿」


ここからは伊達政宗の個人的なやり取りに他ならなかった。


「義昌殿はどのように乱世を望んでおられますか?」


料理も冷えるくらいには話し合った6名。慎重さと警戒心をぶつけながら対話した、真田信伊と片倉小十郎。最初こそは危険な人物かと思えば、その武勇自慢を披露する伊達成実に、謙信時代の荒武者達と過ごした千坂景親のヨイショぶりで話しが弾んだ。

もちろん、木曽義昌も伊達政宗という若き英傑に心を揺さぶられ、感嘆としつつも、自分自身は折れたりはしなかった。



「うーん。質問がちょっと違うかな」

「おや?」

「俺は、乱世が嫌いだ」

「はははは、確かにそうですね。私もですよ。つい時代が乱世だったがためです」


確かに凡庸という評価が、良く似合う武将だ。


「何回もやらされてるんだが、劣勢の状況で戦うのはもう、おかしいと思うんだよ」

「ほぉ」

「例えば、1000人の兵を相手に、50人で戦うとしたら、政宗殿はどうします?」

「とてもじゃないですが、戦にはなりませんな」

「だろ。まずは降伏するだろう。そうやった戦いになれば、味方は死なないし、敵も死なない。数も増える。そうやって、準備を整えて戦いたい。だが実際、そうはいってない防衛戦ばかりだった。劣勢の状況で、兵達を鼓舞するのは容易じゃなかった」


言っていることの基本は、非常に単純な男だ。なんて単純な奴だと思った。しかし、それを凡庸ながら実践できる将は少ない。これまでの防衛戦で結果出し続けていたのは、戦術よりも士気を高められる器か。


「領民を大切しなければな。重税だったり、仲介してる奴は許さないといった。そーいう思いを行動にしないと」


領民からすれば、誰が支配しようが関係ない。少なくとも、生活を苦しませない領主ならば……だ。


「俺は正幸とか、勝頼様を見て、劣等感もある。もちろん、政宗殿の才覚は2人に並び超えられる。だったら、私がやれることはちゃんとした領地経営で信頼を勝ち取るだけ、勝ち取る。戦場に来る兵士達に、指揮をとる俺に、……そこに戦術レベルで必要となる参謀がいれば、良いと思う」

「戦の論ですな」

「はははは」

「いや、私としては義昌殿から十分過ぎるぐらい、良い話を聞けました。確かにそうやって戦う事ができれば、理想ですし。戦わずにして奪うは、何も謀略以外にもありましたと思いましたよ」


なるほど、木曽義昌という武将は……勝ち馬に乗るのが得意な者と見た。木曽家を護り続けたためにそうなったのか、天性のモノかは知らないが。非常に脅威だ。

織田信長様も、戦においての唯一の博打は”桶狭間の戦い”だと言われている。あれほどの奇襲だからこそ、日の本を騒がせたが……。斎藤家、六角家、三好家などとの戦いは、兵站や軍備をしっかりと整えて戦った。包囲網においても、その軍備が残っていたからこそ抗え、包囲網の綻びが見えれば神速に対応し、勢力を広げた。

つまり、盤石な戦いというのをよく分かっているお方。

木曽義昌もそのタイプ。派手に勝つことはなく。圧倒的に有利な状況で戦うこと。そこに謀略が足らず、戦術が足らず……しかしながら、領民や兵士に慕われ、全力で戦ってくれる。大将が必ずしも全てに秀でる必要はないな。


「政宗様は天下を目指しますか?」

「無論。伊達家は天下を目指す」


義昌からの意外な質問に、悩むことなく、答えた政宗。かなり素だった。徳川家とは停戦に過ぎず、目標が達成されれば情勢次第で関わらず。

そんな細かい意図など分からず、義昌。


「本気か~。……政宗殿を見てると、織田信長や徳川家康、……武田信玄様を彷彿させる。そして、部下や家族に恵まれておられる。乱世を収められる器を持った男として、俺も生まれたかったものだ」


そんな予感はしてたし。会見の中で、伊達家が今後の戦略を練っていたのも、義昌には気付いていた。だが、そこまでなのだ。詳しいことはその時にならないと分からないって、決めつけた。今やるべきことは


「最上家攻略のため、伊達家とは停戦を結びましょう。対北条連合については家康様には必ずお伝えするよう致します」




◇        ◇


そして、翌月。木曽家に不幸が訪れる。


「ごほごほ……」


上杉家から奪い、現在は馬場信春が城代を務めている、飯山城。

そこにはもう1人の武将にして、木曽義昌にとって、大事な家族がいた。


「うむ…………」


木曽義康である。上杉家攻略の際は柏崎城の攻略を任され、馬場信春と共に行動をしていたが、上杉景勝と直江兼続に撃退されて飯山城へ敗走。

その戦の前から、体調に不安があった事は否めなかった。


「老兵もここまでか」


……長かった。しかし、家督を譲ったのは幸いだっただろうか。

柏崎城の攻略の失敗よりも前から、自分は一人の将としてはなくなったか。


「父上!!」


木曽家の今後はどうなることか。徳川家に就いた義昌の判断が正しかったか?


「父上!!」

「!……おぉっ、義昌か」


伊達家との会談後、すぐに早馬で飯山城に入った義昌。そして、安田城を任されていた武田勝頼も義康の容態を確認しに来た。


「勝頼様まで……申し訳ない…………」

「父上の代から、今に至るまで、見事な武将の生き様であったよ。義康殿」

「……………この時、褒美をくださるとは……感謝いたします」


木曽家は昔。

武田家と争い、敗れた事によって武田に付き従った。木曽福島の地を護ってきたが、戦乱によって、家は残せても土地は護り切れなかった。

まだ戦乱の世が続くが、自分の命は今日で終わると悟った義康は、成長した義昌に尋ねた。


「義昌。……お前、……これからどうする?」


木曽家を護るため。家督を譲ってからの息子の奮闘。形振り構わない姿に不安がなかったわけではない。


「最上家の攻略を実行します」

「…………」


違う。そーいう戦略の話ではない。

だが、そーいう答えを出すには、一つ一つ解決するのは必要だ。それで答えが出て来る。

義昌にはまだ分かっていないが、伊達家との会談の話を義康にした。


「伊達政宗という大名に会い、その器は家康様に並び超えるかもしれない。そして、彼の目標は天下だったと言っていた」

「………………」

「色んな考えで徳川と停戦し、最上家と戦える準備は相成りました……が、分からんのですよ。この乱世ってモノは……今でも私には」


それが父、木曽義康として、木曽義昌から聞きたかった言葉であったのには違いない。


「父上、勝頼様、馬場様……千坂殿、真田殿、……景勝殿、兼続殿など、優秀な者達がいても、……私はどうやって、木曽家を護ろうかを考えるだけ考えて……天下と大きく答える口はないのです!!ただ木曽家のために戦う!!家を護るためでしかない!!のに、難しゅう!!戦わねば!領土を得ねば!交渉せねばと!木曽家の当主とはこれほど重い物かと!!」

「………………」


長い事、木曽家の当主をやっていた義康であったが。その長さよりも数年で大きくなった木曽家を支える重圧の方が、より濃いのだと、臨終で悟った。


「迷惑をかけた」

「!!」

「武田に降ることで……命は長らえ、多くの喜びを知った。……そして、お前にもそれが現れた」


武田家に下ったことを義昌は幼少から知る。

圧倒的な軍事力を知っているからこそ、それに従うことも。

上杉家で重責を知り、最上家を攻略する時、嫌でも知るだろう。今更言わんで良い事だ……


「天からお前の活躍を見よう」



木曽義康、病没、齢70。



◇          ◇


木曽義康の葬儀は粛々と行い、それと並行する形で義昌の居城である小諸城から安田城に向かって、兵が動き出す。

それよりも先に勝頼と信春を連れて、義昌は安田城に向かう。最上家攻略の軍議を開く前に……


「お二人は伊達家の要求について、どのように思う?」


軍略に明るい2人ならば、伊達政宗が考えている作戦の意図を見抜けると思っての事だ。全部の答えを言えって言ってるつもりはない事は、勝頼達には分かっていた。


「対北条に対して、万全にするためなら、戦略としては十分過ぎる」


目先の事を考えれば、だ。それしか分からないが。


「その後の勢力図を鑑みれば、政宗には外交に自信があると思うな」

「伊達家の鉄砲技術もまた優れている。長期的な戦争の継続は十分可能と見るべきか」

「………………」


要するに乱世は続くよなって事だ。木曽家が初めて大きくなり、その領土も広がった事で敵対勢力との関係性が大事なのも分かった。義昌も薄々は気付いていて、だからこそ、それを乗り越えるためにも、他国に侵攻し、領地を守り投資することが大事だと知っている。

東北地方の南部を、最上家と伊達家がやや分け合っている状況。北部の方では南部家、津軽家、安東家の3つの勢力が争う。


「………………」


言っていいか?こんなにも大袈裟な考え。……木曽家の当主として、……。いや、勝頼様や信春さんは、武田家中で繋がっていても、景勝殿や兼続殿にも示しが必要だろう。

ならば、やるべきだ。


:木曽家の軍容:


木曽義昌、小諸城より

兵5000。


武田勝頼、安田城より

兵2000。


馬場信春、飯山城より

兵1400。


真田信伊、坂戸城より

兵1200。


千坂景親、柏崎城より

兵1500。


上杉景勝、新発田城より

兵3200。


直江兼続、平林城より

兵1800。


合計、16100の兵力。



総大将は、当然の木曽義昌。

副将という形で武田勝頼と上杉景勝。そのさらに下に4名の武将が就くという構成である。現在の木曽家が出動できる最大の兵数である。1つの武家としても非常に大きいが、まだそれぞれに連携などはないと言っていいだろう。


「最上家攻略の軍議を始める」


目標となっているのは、最上家の本城となる山形城の攻略だ。ここを落とせれば、最上家は大きく衰退し、接収は時間の問題とも言える。


「…………」

「?どうした、義昌」

「その前に訊きたい事がみんなにある」

「「???」」

「景勝と兼続には心苦しいかもしれないが、この状況って、俺達が上杉家の領土を獲ったのと似てるんじゃないか?」


織田家が春日山城を攻略の最中。自分達は小城を奪い、上杉家の領土と家臣を大勢得た。今回の侵攻において、最上家の山形城の攻略が大事になるわけで……分かっての通り、被害が大きく、失敗する可能性は十分にある。


「……確かに伊達家と停戦を結び、我が徳川家と戦うことはありません」

「最上家と伊達家の同盟は継続しています」

「どうだろうな。政宗の母方が、最上義光の妹様。勝てぬと判れば徳川に降るのなら、伊達に就く可能性もある」

「そうなれば、私達は停戦を結んでいる以上は領土と城の数は大幅に減る」

「しかし、それはやれるのか?」


いきなり疑心暗鬼から始まったが、こーいう外交面で強い兼続。伊達家のしたたかさも知る上で


「実行する可能性は十分にあるでしょう。政宗と仲が良くないと言えど、血縁者がいるというのは大きい。伊達家からすれば、最上家を傷つけずに吸収できるのなら良いことはない」

「私も同じだ。上杉家として、伊達家とも対峙していたからこそ分かる」


その可能性を訊かれたから答えたのは、木曽家に対してへの信頼度といったところだろう。


「兼続殿、景勝殿。そのような事態を防ぎながら、最上家と対峙するにはどうするか、案はあるか?」

「…………いえ、正直ないですね」

「義光は武勇だけでなく、謀略にも優れる。生半可な策で向かえば、そもそも名城の山形城も落とせません」


そうだよな。最上義光といえば、東北の名将の1人。その家臣達の武勇も名が知れ渡っている。兵力で上回っていても、無傷では済まない。


「領土の確保は必要なんだ。そのためには最上家とぶつかる必要がある……」


最上家をただ攻略するだけでは、ダメなのだ。それが分かって来た木曽義昌である。徳川家の命令に従い続けるだけでは、この先をやっていけないと感じ始めた。


「……あの~、いいですか」

「千坂殿。何かあるのか」

「いや、そりゃあ、最上家と対峙しないと、木曽家としてマズイのは分かるんですが。最上家と戦わずに通過するのはどうです」

「はぁ?千坂、なに言ってんの?できなくはないけど、……」

「最上家の領内には山を挟んでいくつかの小城がある。戦闘は避けられないし」

「兵站の確保がなければ、戦線は維持できない。海路という選択もあるが、安東家は海戦に強い」


侵攻には当然、戦線の維持が必要である。それが出来ない場合、奪ってもすぐに奪い返される。東北地方の立地は山々が多く、兵を動かすことには大変なモノがあり。最上家と戦をしてから他の勢力と戦うのは無謀も良いところだ。


「元上杉家の者として、我々でも東北の土地に詳しくはない。悪くはないが、千坂の意見を取り入れるのは難しいな」

「軍を速やかに動かす上で地道に攻略するしかあるまい。伊達家の策略も当然考慮しつつ……」


景勝と兼続は、上杉家として最上家と戦った事もあるため、地道に戦うことを主張する。

しかし、それでは伊達家に美味しいところを獲られる可能性があるとして、勝頼と信春はあまり良い気はしない。せめて、もう一押しが欲しいところで


「東北地方に明るい人材はいないか?内応を仕掛けられる者とか?」

「う~~~~ん、東北って秘境扱いだしなぁ」

「……沼田さんが東北に向かったとか言ってたかな」

「沼田さん?」


沼田さんという人物の名を出したのは、真田信伊である。沼田さんって言われても、ピンと来ないが。勝頼と景勝、義昌は


「沼田城を任されていた者達か」

「確か南部家だったか、……いや、今は津軽家だったか。そこに仕えていたと聞くな」

「あ~、あの人達か!!思い出した、思い出した。いたな~!」


沼田家。

武田家や上杉家があった時代から、沼田城を支配していた武家。戦乱に巻き込まれ、武家を失ってしまい、当主の息子は北の地に向かったという。


「真田家として、内応を仕掛けてみますか?津軽家と組めれば、あるいは」

「東北の北部は3勢力で睨み合い中。そこに綻びができれば侵略できるかもしれない」

「山道では最上家と激しくぶつかるが、海路だけでも確保できれば、戦線の維持はできるかもしれない」


この時の木曽家はまだ蜃気楼のようにボンヤリとしていた。

しかし、内に秘めた野望に気付かぬ振りができなくなった義昌。


ここから大きな行動に移すのである。


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