4.僕ん家の秘密
プルルルルル!
突然、スマホが鳴り響いた。心平は驚いて、ビクッと体を揺らす。
恐る恐る画面をのぞくと、「お母さん」と表示されている。心平は少し迷ったが、コール音に急かされるように電話に出た。
「も、もしもし……」
「心平、あなた、今なにしてるの!?」
電話口の母の声は、ひどく慌てていた。
「なにって別に……」
「リビングのカーペット、捲ってるでしょ!」
心平は目を見開いた。
「な、なんで知って」
「お母さん、カメラで全部見ているのよ!」
心平の身体から、サーッと血の気が引いた。
(お母さんがカメラで見ている――。)
恐る恐る、辺りを見回した。頭の中は、急速に回転し始める。
(ずっと僕を見ていた? 一体いつから? ずっと前から?)
背中に一筋の汗が流れた。稲妻のような悪寒が走る。
「カメラって、どういうこと?」
「それは後で話すから。なにがあったか教えて?ぼっこちゃんの姿はカメラに映らないのよ!」
母は構わず問いただしてくる。心平の息も荒々しくなってきた。
「ざ、座敷童が……、家から出て行きたいって言ってるんだよ。それで怪我もしてて」
「ちょ、ちょっと、だったら止めなさい!」
「でも」
「あのね、心平。座敷童がいなくなった家には、必ず不幸が訪れると言われてるの。死人が出た家もあるわ。ぼっこちゃんがいなくなってしまったら、私たちどうなるかわからないのよ」
「それは……」
「とにかく、お母さん今からすぐ帰るから。それまでぼっこちゃんを引き留めておきなさい!」
一方的に電話が切れた。
心平はスマホを耳につけたまま、微動だにしない。理解が追い付かなかった。
母はずっと心平をカメラで見ていた。監視していたのだ。
これまでの記憶が、走馬灯のように蘇ってきた。心平はほとんど毎日、この家で座敷童の面倒を見てきた。その様子をずっと母は見ていたのだ。考えられる理由は一つ。座敷童が家から出て行かないか、心平を通して見張るため。
(母さんは、うちを絶対この家から出したくないんじゃ!――)
座敷童の言葉を思い出す。
確かに白石家は、座敷童のいるこの家に引っ越してきたから豊かになった。
母は会社を立ち上げ、事業はすぐに軌道に乗った。今や、五百人もの従業員を抱える女社長だ。
心平は私立小学校に通い、欲しい物はなんでも買ってもらってきた。
今の白石家の生活は座敷童のご利益のお陰だ。だからこそ、母は座敷童をこの家に閉じ込めようとしている。
心平は下にいる座敷童を見た。畳の上で傷んだ足をさすっている。
(お母さんは、座敷童の怪我のことなんか全然気にしてなんかなかった……)
母が帰ってきたら、彼女はこの家から一生出られない。心平は不思議と、そう確信した。
母は座敷童を金儲けの道具としか思っていない。
そう思ったら動かずにはいられなかった。
「心平、なにしてるんじゃ?」
座敷童は顔を上げた。心平が、床のお札をビリビリと剥がし始めたのだ。
「このお札が無くなったら、君は家から出ていける?」
「そうじゃ。でも、いいのか?母さんに怒られるぞ。いや、怒られるだけじゃ済まんかも」
座敷童は「信じられない」というような顔で言った。心平が、母に反抗した記憶などなかったからだ。
確かに心平は、家族旅行が反故になったあの日から、反抗することを諦めた。母にとって、自分より座敷童の方が大事なんだと思っていた。だが、それは違った――。
「いーよ、怒られても。だって、お金欲しさに君を閉じ込めておくなんて、おかしいだろ!」
「はははっ、心平、かっこいいのお」
座敷童は他人事のように笑った。
彼女はよく心平をからかった。もう、こんなやりとりも出来なくなるのかと思うと、少し寂しくなった。
……ガチャッ
突然、玄関の鍵が開いた。心平の額の汗が、お札を剥がしている手に落ちた。
リビングへ勢いよく向かってくる足音が聞こえる。
母が、帰ってきた。




