↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大魔法使いは紫色の瞳に恋に堕ちる  作者: ゆうもみじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
56/62

苛立ち

邸に戻ってからというもの、ナッシュはずっと苛立ちを抱えたまま過ごしていた。


根も葉もない噂だけで、一人の人間が罰を受けようとしている。いや、既に受けたも同然だった。今、この時間も離れた港町の牢に囚われている、その事実がそれを何より物語っている。


自分が迎えに行こうとも何度も考えたが、それが何かを好転させるとは、到底思えなかったのだ。


散々考えた末、居ても立っても居られず、父の書斎を訪ねてみる。

扉の前で軽くため息を吐き、扉をたたく。まだ仕事中であろう父は少し驚いたような声で、ナッシュを部屋の中に招いた。


「父上、少しよろしいですか」


「珍しいな、お前がこの時間に来るとは」


書類仕事の手を止め、バードナが顔を上げる。目線をしっかり合わせ、努めて冷静な声で切り出した。


「例の、紫の瞳の件です。今、どうなっているのか、父上ならご存知ではないかと」


バードナは一瞬、探るような目でナッシュを見た。それから、静かに息を吐く。


「詳しいことは、まだ話せる段階にない。だが……」


少し言葉を選ぶように間を置いてから、バードナは続けた。


「あの記事の出所には、いくつか不審な点がある。裏で誰かが糸を引いている可能性が高い」


「不審な点、というのは」


「それ以上は、今の時点では言えん」


きっぱりとそう告げるバードナの態度に、ナッシュは奥歯を噛み締めた。それでも、こんな状況の中でも冷静さを崩さない父の姿に、内心では感嘆せざるを得なかった。


「いずれ、片は付く」


バードナは静かにそう言うと、再び書類に視線を落とそうとした。


だが、ナッシュはそこで踏みとどまった。どうしても、抑えられない気持ちがあった。


「父上」


「まだ何かあるのか」


「その……紫の瞳の彼女とは、俺は、個人的に知り合いなんです」


その一言に、バードナの手が、ぴたりと止まった。


「ゲンさんという鍛冶屋の孫娘で、名前はシャンティといいます。」


言葉を続けようとしたところで、バードナが顔を上げた。その表情には、これまでにない、何かに気づいたような色が浮かんでいた。


「……ナッシュ」


「はい」


「お前が言っている、その娘は――もしかして、おまえの.…」


「はい…その……お付き合いをしています。」


その一言に父としては嬉しいのか、少し表情をゆるめた。そしてバードナは何かが繋がったとでも言うように、深く息を吸い込んだ。


「なるほど、そういうことか……」


独り言のようにそう呟いたバードナに、ナッシュは思わず身を乗り出した。


「父上、何か分かったんですか」


バードナは、しばしの沈黙の後、真剣な眼差しをナッシュへと向けた。


「やはり今言えることはない。それからその彼女を迎えに行ったり、余計なことはしないように」


「しかし父上!」


「いいな、ナッシュ。たまには父の言うことを聞きなさい、」


父に優しい言葉で強く諭されると、いつもなにも言えなくなってしまう。

とりあえず父が動いてくれているという事実だけが、ほんの少し苛立ちを抑えてくれるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。