思惑
執務室のソファに腰掛けながら、カトリーナは届いたばかりの報告書に目を通していた。
「あら、本当に捕まったのね。」
小さな疑問を噂にしてみただけだったのに、まさか本当に紫の瞳を持つ娘が見つかり、しかも実際に身柄を拘束されるとは、正直なところ予想していなかった。
(そんな女、本当にいたのね)
情報屋を通じて依頼した記者は、うまく事を運んでくれたらしい。金に困った貧乏人記者に書かせた記事がこんなに上手くいくなんて。カトリーナはそのことに何の痛痒も感じていなかった。
(これで、ナルニエル様も目が覚めるはずだわ)
カトリーナは扇子を優雅に開きながら、口元に笑みを浮かべた。素性の知れない、しかも危険視されている娘に心を寄せていたなど、公爵家の三男としてあってはならないことだ。この一件が公になれば、ナルニエル様も自らの過ちに気づき、然るべき相手――つまり自分のもとへ戻ってくるに違いない。
ただ、思い描いていた筋書きとは少し違う方向に、事が大きくなりすぎている気配だけが、わずかに気になっていた。
(思っていたより、大事になっている気がするけれど……)
単なる街娘の噂話にしては、王都でもやけに話題になっている。憲兵の対応も、思いのほか慎重なものだと聞いた。まあただの貧乏人が書いた記事に、大勢の貧乏な平民達が報奨金目当てで騒いでるだけの事だけれど。
(構わないわ。私は何も間違ったことはしていないのだから)
浮かんだ疑問をあっさりと振り払うように、カトリーナは軽く肩をすくめた。良心の呵責など、微塵も感じてはいなかった。ただ、この騒動がどこまで広がっていくのか、その行方だけを、高笑いをしながら見守ろうとしていた。




