親心
「頼む、ほんの少しでもいいんだ、娘の顔だけでも見せてくれないか!」
憲兵詰所の受付で、ゲンは声を張り上げていた。隣に立つアジェーナも、祈るような面持ちでゲンに寄り添っている。
「何度言われても、部外者を中に入れるわけにはいかない」
窓口に座る憲兵は、うんざりした顔で同じ言葉を繰り返した。分厚い木のカウンターの向こうで、書類仕事に戻ろうとする素振りさえ見せている。
「部外者じゃない、あの子は俺たちの孫だ!」
「気持ちはわかるが、簡単にはいかないだよ、上の指示を待つしかない」
変わらない対応に、ゲンは拳を握りしめた。もう何度目になるか分からない押し問答だった。シャンティを連れて行かれてからずっとこの詰所でこのやりとり続けているが、状況は何一つ変わらない。窓の外はすでに西日が差し込み始めている。
「お願いします、せめて無事かどうかだけでも……」
アジェーナの声も、次第に力を失っていく。憲兵は形だけの同情を示すように軽く頭を下げると、それ以上取り合うことなく、奥へと引っ込んでしまった。
二人は肩を落としたまま、詰所の外へと出た。石畳を踏む足取りは重く、これまでの疲労がどっと押し寄せてくるようだった。
「これじゃあ、埒が明かない……」
ゲンが低く呟いた、その時だった。
「失礼。シャンティーナ様のご親類の方々でいらっしゃいますね?」
静かな声が、背後からかけられた。振り返ると、フードを目深に被った人物が立っている。声も、佇まいも、これまで一度も出会ったことのない人物だった。
「あんたは……誰だ」
ゲンは咄嗟にアジェーナを庇うように前へ出た。見知らぬ相手への警戒が、声ににじんでいる。
「怪しい者ではありません。少し、お二人にお話ししたいことがございます」
「話なら、ここで聞こう」
「いえ、ここでは人目がありすぎます。少し場所を移していただけますか」
その言葉に、二人は顔を見合わせた。得体の知れない相手についていくことに迷いがないはずもない。それでも、その落ち着いた物腰と、こちらの事情を知っているらしい口ぶりに、無視することもできなかった。
ロンと名乗ったその人物に導かれ、二人が連れて行かれたのは港の外れにある人気のない倉庫の裏手だった。潮風だけが吹き抜ける、そんな静かな場所だった。
「まずは、これをご覧いただければ」
ロンはそう言うと、フードをゆっくりと払った。




