色の疑念
「――以上が、団内での聞き込みの結果でございます」
プリストン公爵家の執務室のソファに腰掛けたカトリーナは、報告に耳を傾けていた。目の前に立つのは、密かに雇っている情報屋の男だ。
「ナルニエル様は、ここ数日、耳にピアスをつけていらっしゃるとか。それと、彼女ができたのではという噂について、以前のように否定なさらなくなったそうです」
報告を聞き終えると、カトリーナはゆっくりと扇子を閉じた。
(やっぱり……)
これまで、どれだけ声をかけても振り向いてくれない理由が、ようやく理解できた気がした。あの方が自分に興味を示さないのは、どこかのくだらない女に、絆されてしまっているからに違いない。
(一体、どんな女なのかしら)
考えれば考えるほど、腹の底に苛立ちが積もっていく。公爵家の娘である自分を差し置いて、一体どこの誰が、ナルニエル様の心を奪ったというのか。
「……そのピアスの色は?」
ふと思いついて、カトリーナは口を開いた。情報屋は少し考えるような素振りを見せてから答える。
「大変綺麗な、紫色をしていたとのことです」
「……紫」
その一言に、カトリーナの開きかけた扇子がぴたりと止まった。
社交界では、相手の瞳の色に近い宝石を身につけるのが、公然の常識とされている。もし、そのピアスがその意味を持つものなのだとしたら――
(でも、紫の瞳だなんて……この世にそんな人間がいるはずない)
この国で紫の瞳を持つ者など、聞いたことがない。あり得ないと分かっていながらも、一度浮かんだその考えは、なかなか頭から離れてくれなかった。
(もし本当に、そんな瞳を持つ女がいるとしたら――)
カトリーナの口元に、ゆっくりと笑みが浮かんでいく。
(面白いことになりそうね)
カトリーナは情報屋の男に向き直った。
「新聞社の記者で、誰か金に困っている者はいないかしら。できるだけ早く探してちょうだい」
「金に、ですか」
「ええ。借金でも、ギャンブルでも、何でも構わないわ。弱みがある方が、こちらの都合がいいの」
情報屋は一瞬、カトリーナの意図を測るように視線を彷徨わせたが、それ以上深く聞くことはせず、深く頭を下げた。
「かしこまりました。すぐに手配致します。」
情報屋が部屋を出ていくのを見送りながら、カトリーナは窓の外に視線を移した。
これまで手にできなかったものを、手に入れるためには、多少強引な手を使っても構わない。そう心の中で呟きながら、カトリーナは静かに扇子を開き直した。




