片方の。
今日が、その日だった。
朝から、シャンティはどうにも落ち着かなかった。薬草畑の見回りをしていても、いつものように集中できない。頭の中では、不安と心配がぐるぐると渦を巻いていた。
(絶対大丈夫だって、言ってたけど)
(でも、魔物って、本当に恐ろしいものなんだよね……)
安心させてくれた言葉と、拭いきれない不安。その二つが交互に浮かんでは消えていく。
落ち着かない気持ちを抱えたまま、シャンティは自室に戻ることにした。
引き出しの奥にしまってある、小さな箱。子供の頃、ゲンが鍛冶場で作ってくれたものだ。銀にも似た、けれど驚くほど軽い金属――ゲンが遠方から仕入れた特別な素材で打ち出されたもので、火にも強く、決して燃えることがないのだという。
中に収まっているのは、片方だけのピアス。淡いラベンダー色の石が、そっと輝いている。
「帰ってくるまで、預かっていてくれないか」
別れ際、ナッシュはそう言って、このピアスを手渡してくれた。
「必ず、取りに来るから」
目を閉じ、シャンティは静かに祈りを込めた。
(神様。どうか、ナッシュさんをお守りください)
(どうか、無事に、帰ってきますように)
窓の外から、遠く微かに、街の方角から角笛のような音が聞こえてきた気がした。出発の合図なのかもしれない。




