色の意味
数日後、詰所の空気は、いつもより幾分張り詰めていた。
装備の点検、食料や薬の積み込み、隊列の最終確認。二週間ともなれば準備はそれだけ大変になる。慌ただしく動き回る部下たちの姿を眺めながら、ナッシュもまた、自分の荷物を整えていた。
ふと、耳元で音を感じる。あのラベンダー色のピアスだ。出発前、身につけるかどうか少し迷ったが、結局そのままにしておくことにした。
「団長、そのピアス、やっぱり格好良いですね」
通りがかった部下の一人が、憧れの眼差しを向けつつ、声をかけてきた。
「ここ数日で、団の中でも真似する奴がいっぱい出ましたよ。俺も一つ欲しいなと思って、昨日の帰りに街の装飾品屋を覗いてみたくらいです」
「そうなのか」
「はい。前に団長が新しい手袋に変えた時も、同じものを買う奴が続出しましたし。団長の身につけるものって、なんだか目に留まるんですよね」
朗らかに笑う部下に、ナッシュは少し複雑な気持ちで頷いた。
(色じゃなくて、ピアスそのものが人気になってるのか)
内心でそう思いながら、密かに胸を撫で下ろす。あの色が持つ意味に、誰も気づいていないらしい。それが分かっただけでも、少しばかり安心できた。
「それよりも団長、彼女ができたって話、本当だったんですね」
別の部下が、興味津々といった調子で話しかけてくる。
「以前は聞かれるたびに否定してたのに、最近はもう何も言わなくなったから、みんな確信してますよ」
その指摘に、ナッシュは思わず言葉に詰まった。確かに、以前のように「そんな相手はいない」と強く否定することは、もうしなくなっていた。
「……仕事に戻れ」
誤魔化すようにそう告げると、部下はにやにやと笑いながらも、素直にその場を離れていった。
荷物の最終確認を終え、隊列が整い始める。出発の号令がかかる直前、ナッシュはもう一度、耳元のピアスにそっと触れた。
(行ってくる)
誰にともなく、そう心の中で呟く。
「出発!」
号令とともに、宮廷魔術師団の一団は、街の門をくぐって進み始めた。二週間という任務が、こうして始まろうとしていた。




