想い
見慣れた我が家が近づいてくると、シャンティは繋いでいた手をゆっくりとほどいた。
「ここまでで大丈夫です。ありがとうございました」
「いや、ちゃんと中まで――」
「ちょっと待っててください!」
ナッシュの言葉を遮るように、シャンティは慌てて家の中へと駆け込んでいった。突然のことに、ナッシュは戸惑いながらもその場に立ち尽くす。
しばらくして、両手に大きな袋を抱えたシャンティが、息を切らしながら戻ってきた。
慌てて袋の中にガサゴソと手を入れる。
「これ……石鹸です。それと、お母様に、追加のハンドクリーム」
「わざわざ持ってきてくれたのか。ありがとう」
受け取ろうとするナッシュに、シャンティはさらに小瓶や小袋を次々と差し出していく。
「あと、これは傷薬。切り傷にも火傷にも効きます。それから、こっちは解毒薬。魔物の毒にも、大抵のものには対応できるはずです」
「シャンティ、そんなに――」
「それと、これは匂い袋です。獣の魔物が嫌う香りが入っていて、身につけておくと近づかれにくくなるはずで……」
言葉を重ねながら、シャンティの瞳から、こらえきれなくなった涙が一粒、ぽろりとこぼれ落ちた。
その瞬間、ナッシュはたまらなくなって、そのたくさんの小瓶ごと、シャンティをそっと抱き寄せた。
「大丈夫だ」
耳元で、静かに囁く。
「必ず、無事に帰ってくる。約束する」
腕の中で、シャンティの肩が小さく震えていた。ナッシュはその背中に、もう一方の手をそっと添える。
「優秀な部下もいる。何より、この薬があるんだ。何も心配いらないよ」
その言葉に、シャンティは涙を拭いながら、小さく頷いた。
「絶対に、絶対に無事に帰ってきてください」
「ああ、約束する」
夜の静けさの中、しばらくの間、二人はそのまま寄り添い続けていた。渡された荷物の重みが、シャンティの想いの重さそのものだと、ナッシュは心に刻み込んだのだった。




