何も変わらない
繋いだ手のまま、二人はゆっくりとした足取りで家路を歩いていた。
(この道、もっと遠ければいいのに)
そう思いつつ、また髪飾りをふと触ってしまう。話しながらこちらを見て微笑んでくれるナッシュを、もっと、ずっと見ていたい。そう思う気持ちが、会う前よりももっと大きくなっていたのが自分でも分かった。
そんな時、ゲンとアジェーナの言葉がふと頭によぎった。
『公爵家の三男に、鍛冶屋の孫娘とはねえ』
公爵家の三男。宮廷魔術師団の団長。社交界で誰もが振り向くような美しい人。それに対して、自分はただの鍛冶屋の孫娘…。考えれば考えるほど、その差が恐ろしいものに感じられた。
「あの……公爵様って……ナッシュさんって、すごく偉い人、なんですか?」
尋ねてしまってから、シャンティは慌てて口を噤んだ。もし「そうだ」と頷かれたら、どうすればいいのだろう。そんな考えが頭をよぎり、鼓動が速くなる。
ナッシュは足を止め、シャンティの方へと向き直った。
「確かに父は宰相だな。立場もある。」
シャンティは思わずグッと手に力が入ってしまう。
「でも、俺自身は、ただの魔法使いだよ」
そう言いながら、ナッシュはそっとシャンティの頬に手を添え、眼鏡越しに瞳を見つめる。
「君と、何も変わらない」
まっすぐに見つめてくるその瞳に、飾り気のない、誠実な言葉が宿っていた。
(ああ、なんて――)
シャンティの胸に、温かいものがじんわりと広がっていく。地位や肩書きなど関係なく、ただ一人の人間として自分を見てくれている。その事実が、何よりも嬉しかった。
「はい……」
小さく頷きながら、シャンティは自分の頬に添えられたナッシュの手に、そっと自分の手を重ねた。
夜風が二人の間を静かに通り抜けていく。それでも、その瞬間だけは、時間が止まったかのように、穏やかで満ち足りたものだった。




