心配
夢のような時間は、あっという間に過ぎていってしまう。
繋いだ手のひらから伝わる温もりを感じながら、シャンティは隣に立つナッシュの横顔を見つめていた。ずっとドキドキしすぎて、心臓が少し痛いくらいだった。
(こんな素敵な景色を、一緒に見ていられるなんて)
夜景の輝きも、隣に立つ人の存在も、まるで夢のように現実感が感じられない。それでも、しっかりと繋がれたこの手の温かさだけが、これが夢ではないのだと教えてくれている。
しばらく夜景を眺めていたところで、ナッシュがふと表情を改めた。
「仕事で…」
「はい」
「来週から、討伐の任務で街を離れることになった。2週間ほど、戻れない」
急に現実に戻されるようなその言葉に、シャンティの胸がきゅっと締め付けられた。
「2週間…も……」
「ああ。今回は少し規模の大きい任務でな」
淡々と告げるナッシュに、シャンティは思わず尋ねずにはいられなかった。
「危ないんじゃ……お怪我とか、大丈夫なんですか」
その問いに、ナッシュは一瞬、驚いたように目を見開いた。それから、ふっと表情を緩めて笑う。
「心配してくれるのか」
「当たり前です」
少し怒ったように口を膨らませる。
「そうか……そんなふうに心配されたのは、初めてかもしれないな」
どこか照れくさそうに、それでいて嬉しそうに笑うナッシュに、シャンティは少し戸惑った。何故なら彼がどれほどの実力を持つ魔術師なのか、宮廷魔術師団の団長という肩書きの重みも、その恐ろしいまでの強さも、彼女の中では全く実感の伴わないものだった。ただ、大切な人が危険な場所に行く、というその事実だけが、胸の中を締め付けてしまっていた。
「必ず…絶対に無事に帰ってきてくださいね」
「ああ、約束する」
そう言って、シャンティの安心を獲るかのように、繋いでいた手の甲に口付けを落とした。
夜も更けてきた頃、ナッシュが空を見上げて呟いた。
「あまり遅くなっても良くないな。送っていくよ」
「……はい」
繋いだ手を離すことなく、二人は時計塔を後にした。まだまだ騒がしい祭りの余韻が残る街並みを、名残惜しさを抱えながら、ゆっくりとした足取りで歩いていった。




