呼び名
祭りも終盤に差し掛かり、あたりは少しずつ夜の色に染まり始めていた。
「そろそろ…」
ナッシュがそう言うと、シャンティは髪飾りから手を離し、視線をナッシュへとうつす。
「場所を移動しよう」
「場所、ですか?」
「ああ。少し目を閉じていてくれないか」
どんな場所だろう、とドキドキしながら、シャンティは言われた通りに瞼を閉じた。ふわりと風が頬を撫でる感覚があり、体が浮くような気配を覚える。
「もう、目を開けていいぞ」
言われるままにそっと目を開けたシャンティは、思わず息を呑んだ。
「…!!」
目の前には、街を見下ろす時計塔の頂上が広がっていた。落ち葉や土ぼこりからも見ても、普段誰も踏み入れないであろうといことは、誰が見てもすぐにわかるほどだった。
王城とは反対側に位置するこの塔からは、祭りで賑わう街並みが一望できる。無数のランプの灯りが、まるで地上に散らばった星のように、きらきらと輝いていた。
「わあ……」
言葉を失うほどの美しさに、シャンティはしばらくの間、その光景に見入っていた。
「ナルニエル様! すごい、綺麗です」
思わず声を上げると、隣に立つナッシュが、真剣な表情でシャンティの瞳を見つめる。
「ナッシュだ」
「え?」
「家族と、仲の良い友人からは、ナッシュと呼ばれてる」
「あ……」
思いがけない言葉に、シャンティは瞬きを繰り返した。ナッシュは先程よりもさらに一段、真剣な眼差しでシャンティを見つめる。
「これからは、ナッシュと呼んでくれないか」
その言葉の意味を噛み締めるように、シャンティの瞳に、じわりと涙が浮かんだ。
「はい……」
小さく、けれどはっきりとした声でそう答える。ナッシュはその返事に、安心したかのように、優しく目を細めた。
「ありがとう」
そう囁くと、ナッシュはそっとシャンティの額に唇を寄せた。
夜景の輝きに包まれながら、シャンティは自分の胸が今まで感じたことのないほど、温かく満たされていくのを感じていた。




