めんどくさい
(よりによって……)
声の主を認めた瞬間、ナッシュは内心で深く嘆息した。ラビアーニだ。数いる部下の中でも、一番見つかりたくない、いや、めんどくさい相手に見つかってしまった。
とっさに、ナッシュは背の高さを利用して、シャンティを自分の背中にそっと隠すように立ち位置を変えた。
(匂いまでは、さすがに誤魔化しきれないか)
顔立ちを変える幻影魔法は得意でも、匂いまで変える技術は持ち合わせていない。ナッシュは小さく息を吐くと、諦めたように魔法を解いた。淡い光とともに、いつもの顔立ちが露わになる。
「団長……」
ラビアーニは呆然とした様子で、こちらを見つめていた。
「仕事、終わったんじゃなかったんですか?」
その声には、隠しきれないショックが滲んでいた。ナッシュはできるだけ平静を装いながら、素っ気なく答える。
「休みの時間に、俺がどこで何をしようが自由だと思うが」
「そう、ですけど……」
言葉に詰まるラビアーニの視線が、ナッシュの背後にちらりと動いた。
「あの、今の…あの、後ろにいらっしゃるのは――」
「君は職務中だろう、仕事に戻れ」
それ以上を言わせる隙を与えず、ナッシュは短くそう告げた。ラビアーニは何か言いたげに口を開きかけたが、団長命令とあっては逆らうこともできず、渋々といった様子で会釈をして立ち去っていった。
その後ろ姿が完全に見えなくなったのを確認すると、ナッシュは小さく息をついた。
「悪い、驚かせたな」
「い、いえ……」
シャンティは戸惑った様子で頷いた。ナッシュは軽く手を上げ、再び自分とシャンティの周りに幻影の光を纏わせる。
「念のため、少し場所を変えよう」
そう言うが早いか、ナッシュはシャンティの手を取り、軽く風の魔法を発動させた。ふわりと体が浮くような感覚とともに、二人はあっという間に、祭りの中心から少し離れた場所へと移動していた。
「わっ……!」
突然の浮遊感に、シャンティは思わず声を上げてナッシュの腕にしがみついた。
「大丈夫か」
「び、びっくりしました……こんな移動の仕方まであるんですね」
「こんな使い方は滅多にしない、それに本来、街の中では使用禁止だからな」
「それって…」
「この早さで、気づく人間はいないよ」
そう少し真面目な顔で話した後、笑顔を見せたナッシュに、シャンティは戸惑いながらも、思わず小さく笑い返してまった。




