帰り道に
荷物を無事に卸し終え、空になった荷馬車に揺られながら、シャンティとラーナは帰路についていた。
「はぁ、今日はとんだ災難だったねえ」
手綱を握りながら、ラーナが苦笑交じりに言う。シャンティはエプロンのポケットを触りながら小さく頷いた。
「ん、まさか人が飛んでくるとは思わなかったから、びっくりした。」
「ギルドはねえ、血の気の多い連中がいっぱいいるからあんなこともしょっちゅうさ。シャンティちゃん、本当に大丈夫だった? ケガしてないかい?」
「大丈夫!大きい人にかばってもらったから」
そう答えた瞬間、シャンティの脳裏にあの光景が蘇る。抱きしめるようにかばってもらった拍子にずれた眼鏡。間近で目が合った、あの人の顔。
「――そうそう、それなんだけどさ」
ラーナがにやりと笑いながら、こちらをちらりと見た。
「助けてくれた人、ずいぶんとかっこよかったねえ」
「え……」
「あの制服、宮廷魔術師団のだったでしょ? 顔もいいし、さすが貴族の人は違うわねえって思っちゃった」
「あ……うん。そう、だね」
シャンティは曖昧に頷きながら、内心でひそかに安堵していた。ドキドキしていたのは自分だけではなかったらしい。
「みんなもそう思うよね。私も、あんな人が近くにいたら緊張しちゃうかも」
「ふふ、シャンティちゃんも顔に出てたよ。真っ赤になってたもの」
「そ、そんなに?」
思わず頬に手を当てると、ラーナが声を上げて笑った。
「大丈夫、可愛かったよ。でもね」
笑いながらも、ラーナの声にわずかに真剣な色が混じる。
「男には気をつけるのよ。顔がいい人ほど、変に惚れっぽくなりがちだからね。特にああいう身分の高そうな人は、簡単に近づいちゃだめだよ」
「わ、わかってるよ。別にそんな……」
「まあまあ、念のためね。私だってビノと結婚するまで散々苦労したんだから」
ラーナの言葉に、シャンティは思わず小さく笑ってしまった。それでも、彼女の忠告が心配からくるものだと分かっているので、素直に頷いておく。
「まぁもう会うこともないだろうしね」
「そうだね。……」
馬車の車輪がガタゴトと石畳を鳴らす。街並みが少しずつ見慣れた景色に変わっていくのを眺めながら、シャンティはもう一度、あの瞬間のことを思い返していた。
特別なことなんて何もない。ただ、ただ、ちょっとかっこいい人に助けてもらっただけ。それだけのはずだった。




