君の色
「待たせてごめん!」
息を切らしながら駆けてくるナッシュの姿に、シャンティは思わず立ち上がった。
「いえ、そんな。こっちが勝手に早く来ちゃっただけですから、謝らないでください」
「いや、待たせたのは事実だから」
「私こそ、早く来すぎて、ホントに申し訳なかったです」
互いに謝り合う形になり、二人は顔を見合わせて、どちらからともなく小さく笑い出した。
「なんだか、前にも似たようなことがあった気がするな」
「ふふ、本当ですね」
笑い合いながら、二人はゆっくりと祭りの中へと足を踏み入れた。
賑わう通りを歩きながら、あちこちの屋台を覗いていく。甘い焼き菓子を分け合って食べたり、大道芸人の芸に足を止めたり、ラベンダーの香油を売る店で香りを試したりと、時間はあっという間に過ぎていった。シャンティは口数こそ多くなかったが、その表情は終始楽しそうで、ナッシュもまた、そんな彼女の様子を見ているだけで満ち足りた気持ちになっていた。
人混みを抜けたところで、小さな装飾品を並べる屋台が目に留まった。
「あ……」
シャンティの視線が、一つの小さなピアスに吸い寄せられる。ラベンダー色の小さな石が、陽の光を受けてきらりと輝いていた。
「綺麗な色ですね」
何気なく呟いたシャンティの隣で、ナッシュは内心で密かに息を呑んでいた。
(あの日、眼鏡越しに見えた色に近いな……)
淡い紫がかったその石の色は、シャンティ本人が気づいていないだけで、彼女自身の瞳の色にとてもよく似ていた。もちろん、そのことを口にするわけにはいかない。
「これをもらおう」
「え、それって……」
「気に入ったから、俺用に」
「ナッシュさんが着けるんですか?」
「まあ、記念に…な」
誤魔化すようにそう答えながら、受け取った小さな包みをそっと懐にしまい込む。シャンティは不思議そうな顔をしていたが、それ以上は深く追及することもなく、また笑顔で次の屋台へと視線を移した。
その後ろ姿を見つめながら、ナッシュはふと思い立って、隣の露店に並んでいた別の品に目を留めた。青い石をあしらった小さな髪飾りだ。
「シャンティ、こっちも見てくれ」
「はい?」
呼び止められて振り返ったシャンティに、ナッシュはその髪飾りを差し出した。
「シャンティに似合うと思うんだが」
そう言いながら、ナッシュはそっと髪飾りをシャンティの髪に着けてみせた。少し身を寄せ、指先で丁寧に位置を整える。
「よく似合うよ」
間近で微笑まれ、シャンティは顔を真っ赤にしながら、それでも視線を逸らすことができなかった。
「あ、ありがとうございます……大切にします」
それだけ言うのが、やっとだった。




