石鹸
薬草畑の手入れをしながら、シャンティはふとした拍子に、あの日のことを思い出しては頬を赤らめていた。
(また今日も、こんな調子……)
それでも、ただそわそわしているばかりではいられない。せっかくの機会だ、何か贈り物を用意したいと考えていた。
(ヴィオレンティーノ家のみなさん、忙しい方ばかりだって言ってたな)
毎日忙しく働いていれば、体の汚れや疲れも溜まりやすいはずだ。何か、日々の暮らしの中で気軽に使ってもらえるものがいい。
(保湿成分の入った石鹸なら、みなさんで使ってもらえるかも)
乾燥棚を眺めながら、シャンティは記憶の中の知識を手繰り寄せた。肌を潤す効能を持つ薬草と、香りの良い花びらを組み合わせれば、上品な仕上がりの石鹸になるはずだ。ヴィオレンティーノ家の皆に、家族全員分として渡せるものを作りたい。
さっそく試作に取り掛かると、時間はあっという間に過ぎていった。薬草を刻み、油と混ぜ合わせ、型に流し込んで固める。何度か配合を変えながら、ようやく納得のいく仕上がりになった石鹸を、シャンティは満足げに眺めた。
「シャンティ、また何か作ってるのかい」
工房から戻ってきたゲンが、カウンター越しに覗き込んでくる。
「うん。今度、街のお祭りに誘ってもらったから……ヴィオレンティーノ家のみなさんに、何か渡せたらなって」
「ほう」
ゲンとアジェーナが顔を見合わせた。
「あの魔術師団の坊ちゃんかい」
「うん」
少し照れながら頷くシャンティに、二人は目を合わせ、何やら意味ありげな笑みを浮かべる。
「公爵家の三男に、鍛冶屋の孫娘とはねえ」
アジェーナがのんびりとした口調でそう言うと、ゲンが小さく笑った。
「身分違いも甚だしいって話だが……まあ、俺たちが言えた義理じゃないな」
「本当に。伯爵家の娘と鍛冶職人だもの」
二人はくすくすと笑い合っている。シャンティは首をかしげた。
「二人とも、何がそんなにおかしいの?」
「なんでもないよ」
「気にしないでおくれ」
顔を見合わせたまま笑い続ける二人に、シャンティはますます不思議そうな顔をしていたが、それ以上は追及せず、手の中の石鹸にそっと視線を戻した。
週末までは、あと少し。渡す時の言葉をどうしようかと、シャンティはまた一人、あれこれと考えを巡らせ始めていた。




