真剣な眼差し
母専用のクリームを渡してから、数日が経った頃だった。
「ナッシュ、ちょっといいかしら」
邸に戻るなり、ジョリーに呼び止められた。心なしか、いつもよりも声が弾んでいる。
「どうしました」
「あのクリーム、使ってみたのだけれど――」
ジョリーは自分の手を、ナッシュの目の前に差し出した。
「見て、この傷。庭仕事でうっかり切ってしまったところなんだけど、1日塗っただけで、もうほとんど分からなくなってしまったの」
言われてよく見ると、確かに小さな傷跡がうっすらと残っているだけで、腫れも赤みもすっかり引いている。ただの手荒れ用だと思っていたクリームに、そこまでの効能があったとは、ナッシュ自身も驚きだった。
「それだけじゃないの。香りも上品で、肌馴染みも良くて……こんなに素晴らしいもの、これまで使ったことがなかったわ」
「私のために、わざわざ調合してくださったのよね。そう思うと、なんだか特別なものをいただいた気がして」
感激した様子のジョリーに、ナッシュは少しくすぐったい気持ちになった。
「それで、ね」
ジョリーは少し身を乗り出した。
「今度そちらのお店に行く時、お父様や、お兄様たちの分も、何か見繕ってきてもらえないかしら。目元の疲れに効くようなクリームとか」
「父上たちの分も、ですか」
「ええ。あなたのおかげで、私の手はすっかり綺麗になったんだもの。あの人たちにも、同じように楽をさせてあげたいわ」
断る理由も特に見当たらず、ナッシュは苦笑しながら頷いた。
「分かりました。今度、聞いてみます」
その後店を訪れたのは、それから1週間後のことだった。
「母が、あのクリームをすっかり気に入ったようでな。傷まで治ったと、えらく感激していた」
「本当ですか?ふふ、うれしいな…」
シャンティの顔が優しく綻ぶ。
「配合した薬草に、治癒を助ける効能のものも混ぜていたので……きっと、それが効いたのかもしれません」
「たいしたものだな」
「い、いえ、そんな」
照れたように俯くシャンティに、ナッシュは思わず目を細めた。
「それで、父と兄たちの分も、目元に効くクリームを頼めないかと言われてな」
「かしこまりました。少し調合を考えてみますね。…みなさんおいくつですか?」
「そこまで考えてもらっているのか」
「はい。皆様、それぞれ疲れ方も違うと思ったので…」
真剣な顔で説明するシャンティの様子に、ナッシュはつい見入ってしまった。
ひとしきり3人の説明を終え、1週間後には出来上がるとの説明を受ける。
「楽しみにしてる」
「はい、頑張って作りますね」
(1週間か…)
そういったシャンティの笑顔に癒され、店を後にするのだった。




