言い訳
店を訪れたのは、それから2週間後のことだった。街へ向かう道すがら、ナッシュは自分の足取りがいつになく軽いことに気づいていた。母の頼み事という、これ以上ないほど正当な理由があることが、なんだかくすぐったい。
「急に来て申し訳ない。前に話していた母専用のハンドクリームなんだが…」
「お久しぶりです!あの、お好みなど、何か伺っていますか?」
シャンティの表情が、すっと真剣なものに変わる。
「香りは控えめなものが好みらしい。あとは、肌が少し乾燥しやすいと言っていた」
「かしこまりました。少し調合を考えてみますね」
仕事に対する丁寧な姿勢に、ナッシュはつい見入ってしまう。
「そこまで細かく聞いてもらえるとは、思っていなかった」
「はい、その方に合わせて作りたいので。」
その笑顔一つで、今日ここに来た甲斐があったと、素直にそう思える自分がいた。
「一週間以内にはお渡しできると思います!」
短いやり取りを交わしただけの、あっという間の訪問だった。それでも、店を出るナッシュの足取りは、来た時よりも軽くなっていた。頭の中では、次にまた顔を合わせられる日のことを、早くも考え始めていた。
二度目に店を訪れたのは、さらに一週間後のことだった。前回からそれほど日が経っていないはずなのに、ナッシュはその数日を、いつもより長く感じていた。
「注文の.…」
「はい、ちょうど今朝仕上がったところです」
差し出された小瓶を、ナッシュは丁寧に受け取った。中身以上に、これを作るためにシャンティが費やしたであろう時間と気遣いのことを考えると、胸の奥が温かくなる。
「これなら、母も気に入ってくれそうだ」
「喜んでいただけると嬉しいです」
その言葉には、心からの願いが滲んでいた。誰かを喜ばせたいという気持ちに、一切の打算がない。そのまっすぐさに、ナッシュは改めて惹かれている自分を自覚した。
次は自分のをまた作ってもらうか…、気づけば次への言い訳を考えている自分に苦笑いをしたのだった。




