つないだその手に
空が茜色から少しずつ藍色に変わり始める頃、ナッシュはふと我に返ったように口を開いた。
「申し訳ない、届けに来てくれたのに、随分と時間を取ってしまったね」
「いえ、そんな」
シャンティは慌てて首を振った。時間を取らせたなんて、少しも思っていない。むしろ、こんなに長く一緒にいられたことの方が、ずっと嬉しかった。
「送るよ」
「大丈夫です! 本当にすぐそこですから」
慌てたように手を振るシャンティに、ナッシュは思わず笑ってしまった。
「すぐそこなら、尚更送られてくれないかな」
「え……」
「暗くなる前に、家まで見届けたい」
まっすぐにそう言われて、嬉しさと驚きを心で戦わせながら、慌てて視線を戻す。
「ふふ、わかりました。それではお願いします」
「それでは、お嬢様」
おどけたように言いながら、ナッシュはシャンティに向かって手を差し出した。シャンティは一瞬迷うように視線を落としたが、やがてその手にそっと自分の手を重ねた。
指先が触れた瞬間、どちらからともなく、自然に指が絡み合う。二人はそのまま、繋いだ手を離すことなく、夕暮れの通りを歩き出した。
橙色の光が、街並みを柔らかく照らしている。シャンティは俯きがちに歩きながら、内心でそっと願っていた。
(この夕日が、赤くなった顔を誤魔化してくれますように)
繋いだ手のひらから伝わる温もりに、鼓動が落ち着く気配はまるでなかった。それでも、隣を歩くナッシュの穏やかな横顔を見上げると、不思議と安心する自分がいる。
言葉は少なかったが、二人の間には、それ以上の何かが確かに流れていた。街灯が一つ、また一つと灯り始める中、二人はゆっくりとした歩調で、家路をたどっていった。




