二人の特別
まっすぐな言葉に、少し驚きながらも、こんなふうに素直に評価されるのは、思いのほか心地よいものだった。
少しの照れを隠すように、ナッシュは残りの果実水を全て飲み干した。
「……そんなに自分の魔法を誉めてもらって。こちらこそ、ありがとう」
その言葉に、シャンティは少しだけ首をかしげたあと、小さく笑った。
「ふふ、私たち、お礼言い合ってますね」
そう言われて、ナッシュも思わず笑ってしまった。二人の間に、ようやく肩の力が抜けたような、穏やかな笑いが広がっていく。
「確かにそうだな」
「なんだか、おかしいですね」
くすくすと笑っていたシャンティは、ふと何かを思い出したように、鞄の中に手を入れた。
「あ、あの…」
取り出したのは、以前渡したものとよく似た小瓶だった。渡すべきかどうか、実はここに来る前、何度も迷っていた。あまり出しゃばりすぎているのではないか、重たく思われはしないだろうか――そんな不安を抱えながらも、結局は伝えたい気持ちの方が勝っていた。
「これ、少しちがうんですけど、ハンドクリームです。おじいちゃんから、何も渡してないって聞いたので…」
「わざわざ。これのために?」
その一言に込められた驚きと嬉しさが、シャンティの胸を柔らかく温めた。
本当は、次に会う時にはこれを渡そうと決めていた。あの日、店で少し話しただけの相手のことを考えながら香りを選び、配合を整える。そんな時間を過ごすうちに、いつの間にか、ただの手荒れ用の薬というより、ナルニエルと自分のことを思って作った特別な一品になっていた。
不思議なことに、そうして作ったものの方が、前回よりもずっと彼の好みに合っている気がしてならなかった。理由は自分でもよく分からない。それでも、心のどこかで、そう感じずにはいられなかった。
「はい。……あ、それと、これ、普段私が自分で使ってるものに、少しだけ効果を強めにしたものなんです。手荒れがひどいって聞いたので」
説明しながら、シャンティは瓶を差し出した手が、ふっと、思いついたことにためらい、思わず止まってしまった。
「あ……でも.…私のと、同じ匂いになっちゃいます…ね」
言った瞬間、自分でも思いがけない発言だったと気づき、シャンティは少し目線をそらした。
少し慌てたようにそう言うシャンティに、ナッシュは思わず口元を緩めた。
「それは光栄だな」
そう言いながら、差し出された小瓶ごと、シャンティの手にそっと自分の手を重ねる。ほんの一瞬のことだったが、シャンティは驚いたように肩を揺らし、頬は赤らんでいった。
少し落ち着きを取り戻したところで、シャンティは誤魔化すように言葉を継いだ。
「あ、あの、もし前のものの方が良ければ、また前と同じように作りますから、言ってくださいね」
「いや、これで十分だ。むしろ、こっちの方がいい」
その答えに、シャンティはほっと胸を撫で下ろした。それから、少し思いついたように続ける。
「それと……お母様のものなんですけど…もしよろしければ、お好みや、どんな方かを少し教えていただけたら。不思議なんですけど、その方のことを考えながら作った方が、なぜだかうまくいく気がして…」
「分かった。今度、それとなく聞いておくよ」
向けられた笑顔に思わずシャンティも笑顔になってしまう。
「また、会えるといいな」
思わずこぼれた本音だった。口にしてから、少し性急すぎただろうかと、ナッシュ自身も内心で戸惑っていた。
思わずこぼれた本音に、シャンティは赤ら顔のままナッシュを見つめて、
「はい。私も…お会い…したいです。」
その返事に、むしろ、自分から言い出せなかっただけで、同じ気持ちをずっと抱えていたのだと、シャンティの表情が物語っていた。
夕暮れの光の中、二人は顔を見合わせて、もう一度小さく笑い合った。この時間が、もう少しだけ長く続けばいいのに――そんな願いが、どちらの胸にも、静かに芽生えていた。




