キラキラ
「気に入ったなら、もう一つ…」
ナッシュはそう言うと、軽く指先を宙に滑らせた。次の瞬間、二人の周りにふわりと光が舞い上がる。
小さな花びらの形をした光の粒が、次々と宙に浮かび上がっては、きらきらと輝きながら舞い散っていく。夕暮れの薄闇に溶け込むように、淡い光の粒子は色とりどりに揺らめき、まるで見えない風にあおられているかのようだった。ほんの数秒のことだったが、その光景は儚くも美しく、あっという間に消えていった。
「わあ……! 綺麗……なんだか綺麗すぎて……」
シャンティは消えてゆく光の欠片に触れ、手のひらの上をすり抜けていく光の粒の、ひやりとした余韻を指先で感じていた。見つめる瞳が、じわりと潤んでいく。次の瞬間、頬を伝って、涙が一粒、ぽろりとこぼれ落ちた。
自分でも驚いてしまい、シャンティは慌てて指先で涙を拭った。
「あ……すみません、なんででしょう、これ……」
「……そんなに気に入ったか」
「はい……とっても」
素直な喜びを口にするシャンティの表情に、ナッシュは思わず目を奪われていた。
(――綺麗だな)
その一言が心の中心を占領する。口に出すことはしなかったが、しばらくの間、ナッシュはその横顔から目を離せずにいた。
「そういえば…」
魔法の余韻が残る中、ナッシュは口を開いた。周囲はいつの間にか、夕暮れから夜の気配へと少しずつ移り変わり始めている。
「ゲンさんが、君のことを誇らしげに話していたよ。仲がいいんだな」
「ふふふ、はい、とても」
シャンティは笑顔で即答した。それから、少し考えるような間を置いて、静かに続ける。
「おじいちゃんとおばあちゃんは、私の本当の家族じゃないんです」
「……そうなのか」
「赤ちゃんの頃、森に捨てられていたところを、拾って育ててくれたんです」
思いのほか落ち着いた口調で語られたその事実に、ナッシュは何と返すべきか、一瞬言葉が詰まる。
「そうか……大変だったな」
「いえ。物心ついた時から、ずっと大切にしてもらってきたので。だから、本当に感謝してるんです」
シャンティの声には、悲愴さも、隠しきれない翳りもなかった。ただ穏やかに、事実を事実として受け止めている。そのまっすぐな態度に、ナッシュは静かに感心した。
「そうか。いい人たちに拾われたんだな」
「はい」
シャンティは小さく頷き、それきり自身の出については触れなかった。詳しい経緯までは語らなかったが、ナッシュもそれ以上踏み込むことはしなかった。
ただ、頭の片隅で、一つ引っかかっていた。
(森に捨てられていた……紫の瞳……)
単なる偶然だと片付けるには、どこか出来すぎていないだろうか。この国では見たことのない色の瞳と、出自の分からない生い立ち。だがナッシュはその想像をひとまず心の奥にしまい込み、今隣に座るシャンティの横顔へと、改めて視線を戻した。




