十日後の約束
十日後、ナッシュは通常通りの業務を、落ち着かない気持ちを抑えられず早々と終わらせてしまった。
「団長珍しく仕事が片付いてますね、なんですかデートですか?」
ルイが、彼女がいないのをわかっているのに、おどけたように問いかける。
「だといいんだがな。」
真面目な顔で返事をすると、たまたま部屋を出ようとしていたラビアーニの動きが止まったのが見えた。
「注文した短剣を取りに行くだけだ。おつかれ」
「わかってますよ、じゃ、お疲れ様です!」
ルイの返事を聞き流しつつ、早々に机を整理し、扉へ向かって歩き出す。ラビアーニが嬉しそうに部屋から出ていくのが見えて、少しゆっくり歩きだす。
少し日が長くなったなぁと思いながら、鍛冶屋への道を急ぐ。
「おう、時間通りだな」
ちょうどカウンターで作業していたゲン爺が嬉しそうに身を乗り出す。
「短剣、仕上がりましたか」
「ああ、ちょうど今朝仕上げたところだ。ちょっと待ってな」
そう言うと、裏の工房に短剣を取りに行ったようだ。
横の薬局では、接客を終えたシャンティが、ナッシュを見つけ少し速足で近づいてきた。
「こんにちは、あの。その…短剣の受け取りですよね」
シャンティは手に握りしめた袋をに目をやりながらナッシュと目をあわせた。
「あの…っ…これ、良かったら」
「少しなんですけど、ハンドクリームなんです。最近、薬草を使って作ってみてて…仕事柄、手が荒れやすいかなって思って……」
「これを、俺に?」
「は、はい。あ、でも」
「や、やっぱり男の方には変ですよね……! そ、そしたら、お、お母様に……差し上げてください……!」
「いや、貰う。ありがたく使わせてもらう」
「え……?」
「魔法の触媒を扱う仕事柄、手荒れはひどい方だ。ちょうど困っていた」
申し訳なさそうにしていたシャンティの表情がみるみるうちに明るくなり、笑顔があふれた。
「本当ですか??良かったぁ……使い方は、朝晩、少量を手に馴染ませるだけで大丈夫です」
赤ら顔をしたシャンティが、袋をそっと突き出してきた。
「ありがとう。大事につかわせてもらうよ。」
そう言って、シャンティの手に触れないよう、気を付けながら袋を受け取った。
「お待たせしたな」
ちょうど戻ってきたゲン爺の手には短剣が握られている。
「素晴らしい出来です。ありがとうございます」
「腕は保証するさ」
「ありがとう。大事に使わせてもらう」
ナッシュはお金を払いながらこちらを見ているシャンティにも声をかける。
「これもありがとう、じゃあまた。」
「は、はい……! また、いつでもいらしてください」
店を出て、街の通りを歩きながら、ナッシュは手の中にある小瓶をそっと握りしめた。短剣よりも、この小さな瓶の方が、今はよほど大切なものに思えていた。




