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大魔法使いは紫色の瞳に恋に堕ちる  作者: ゆうもみじ


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ついでの短剣

「短剣、ねえ」


ゲンは値踏みするような視線を崩さないまま、カウンターに肘をついた。


「見せてみな。今使ってるやつを」


ナッシュは腰の短剣を鞘ごと外し、カウンターの上に差し出した。ゲンはそれを手に取ると、刃の具合や柄の作りを丁寧に確かめていく。


「悪くない品だが、確かにそろそろ限界だな。誰かに切りつけられたのか、それとも魔物相手か」


「魔物討伐が多いので、そちらでしょうね」


「宮廷魔術師団か」


ゲンは短く鼻を鳴らしたが、それ以上詮索してくる様子はなかった。

鞘の具合や刃の厚みなどを確認しながら話を続ける


「まあいい。どんな用途に使うつもりか、詳しく聞かせてもらおうか」


そんなやり取りをしていた最中だった。


「おじいちゃん、乾燥棚の分、あとで確認してっておばあちゃんが.…」


奥の扉から顔を出したのは、両手に薬草の束を抱えた娘だった。ナッシュはその姿に、思わず息を止めた。


あの子だ。


一瞬、目を丸くし、薬草の束を落としそうになったシャンティが、あわてて腕の中を整えて軽くお辞儀をする。


何を話そうかを考えていなかったナッシュは、無理やり心を落ち着かせて言葉をひねり出した。


「ああ、君は..…この前の.、その節はどうも。」


「……こちらこそ、あの…ありがとうございました」


なんだかぎこちないやり取りを壊すかのようにゲン爺が口を挟んだ。


「知り合いかい」


「先日、ギルドで少し。彼女が男とぶつかりそうになったところを、たまたま」


「ああ、あの時の、聞いてるよ。うちの孫が世話になったな。シャンティはちゃんと礼を言ったかい」


「あたりまえでしょ!もうおじいちゃんは、私がいくつだと思ってるの?}


そんなほほえましいやりとりを見ながら


「礼なんて。たまたま近くにいただけですから」

と短く返事をする。


平静を装って答えたつもりだったが、シャンティの方をちらりと見ると、彼女もまた、こちらをじっと見つめていた。


「シャンティ、いつまでもそこに突っ立ってないで、仕事に戻んな」


「……うん、あの.…あ、じゃあ.…また.…」


その場を離れかけたシャンティだったが、ふと足を止め、振り返った。今まで名乗り合う機会すらなかったことに、今更ながら気づき、少し躊躇うような間があってから、意を決したように口を開く。


「あの……そういえば、まだ名乗ってませんでしたね。私、シャンティーナと言います。みんなシャンティって呼んでます。」


その一言に、ナッシュは内心で小さく驚いた。思えば、あの日以来何度も顔を合わせているのに、きちんと自己紹介をしたことは一度もなかった。互いに周囲から呼ばれる名前を、なんとなく聞きかじっていただけだったのだ。


「ナルニエル・ヴィオレンティーノだ」


「ナルニエル様、ですね」


シャンティが小さくその名を口にする。たったそれだけのことなのに、これまでよりも一段、距離が近づいたような気がした。


「ほら、配達の準備遅れるぞ」


「あ、そうだった!それではナルニエル様また、」


照れくさそうにおじきをして、去っていくシャンティを見送る。


「まったく、もう17歳なんだがいつまでも子供で困ったもんだよ。」


ゲン爺は少し顔をほころばせながら、短剣に視線を戻す。


「――で、短剣の話だったな」


目の前で受けている短剣の説明が全く頭に入ってこないことに気がつかず、ついシャンティが出ていった扉に視線を落とすのだった。

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