積み重ね
季節がだいぶ過ぎ去ったある日。俺はいつのように日課の畑仕事をしていた。夢だった魔法は使えてない。魔法と口にすることで、また気まずくなるのが嫌だからだ。ちなみにさっき季節が過ぎ去ったといったが気候は全く変わらない。個人的にはこれも魔法なのかなと思っている。
「おお、良く育ってるな」
「今日はこれを使ったご飯にするのか?」
「そうだな」
一つ一つ丁寧に収穫していく。今日食べる分だけ収穫するから必要最低限だ。
今日はスープになった。俺は元の世界でも料理を作ってこなかったから、再現料理などは出来ない。練習しておけばよかったと悔やまれる。
出会ったに座った椅子に向かい合い、スープを口にする。じんわりとした温かさを口の中で感じる。飲み込むと体の中心からほんのりと温まる。優しい味わいで俺の心も満たされる。
「なんで、この森に来たんだ?」
スープを掬うスプーンの手を止めて俺はじいさんを見る。
「なんか理由がなきゃこんな森には来ない。実際今まで他の人に会ったことがないだろ」
特に気にならなかったが、言われてみればじいさん以外の人間と会ったことがない。そうなると、じいさんがここにいる理由も気になるがひとまずは質問に答える。
「気づいたらここにいたんだ」
「会った時も言っていたが、納得できない」
「——俺は異世界で死んだんだ。次に目が覚めたらこの森に立ってたってわけ」
じいさんは俺の言葉にゆっくりと頷いた。
「この森を出たいか?」
神妙な面持ちでそういった。目線は俺を向いておらず、目の前のスープを見続けていた。
「いや」
俺の言葉は聞こえていないのか、返事はない。
「なにか、やり遂げる前に死んだんだろう。この世界にはそういう言い伝えがある」
どうな言い伝えだと思いつつ、異世界人の知識は保護するだけの物なのかとも思わされた。
「確かに、俺は魔法が使いたいな」
「それも言ってたな。俺からしたら何がそそられるのかわからない」
俺は魔法に対する思いを語らず、そのまま2人黙って食事を終えた。
ある日、家の前に見知らぬ人が立っていた。その人はこの森の中で異色を放っていた。なぜなら、スーツで全身を固めていた。革靴はこのごつごつとした木の根が生える森ではとてもじゃないが歩きにくそうだった。
スーツの男は厳しい顔つきで、じいさんと何やら話している。
じいさんが俺を見つけて手招きした。俺がそばに寄ると、彼は少し目を開いた。
「手を出しなさい」
命令口調に嫌悪感を抱いたが、じいさんの顔をみると素直に従えという様で、しぶしぶ手を差し出した。
手のひらの上に一冊の本が置かれる。特に開くわけでもなくその本を3人で見つめた。
「なるほど、嘘ではないようですね。では、私とともに行きますか」
「ちょっと待ってください。どこに行くんですか?」
「それはもちろん町ですよ。ここはあなたのいるところではないですから」
「俺のいる場所かどうかは、俺が決めます!」
彼は心底めんどくさそうに手にした本を指で叩く。
「ここは罪人が来る森です。あなたがいるところではありません」
罪人? 俺は隣に立っているじいさんの顔を確認した。じいさんは静かに目を伏せて俯いた。その反応でこれが事実だとわかった。
「俺はそもそも入るわけなかったってことか?」
「いえ、別に一般人も入れますが、あなたは異世界人です。こんなところにいるべきではありません」
「それなら、俺がいる場所は俺が決める。帰ってくれ」
「こちらに強要する権利はないですが……こんなところに居ていいのですか」
俺は彼に背を向ける。
「帰ってくれ」
「外に出たくなったらいつでも言ってください」
ようやく、帰っていく足音が聞こえた。森の中にいるのに嫌に静かで俺の心臓の音だけが耳に響いた。




