こんにちは
彼に席に着くように言われて、大人しく席につく。彼はさらに他の部屋に一度入った後、すぐに戻ってきた。そして俺と机を挟んで向かい合わせになる椅子に座った。大きく音を立てて、机に肘をつく。なんとも大柄な態度だ。この家の家主でなかったら、許されない。
「で、どうしてこんなところにいるんだ?」
「気づいたら森の中に立っていて、とにかく誰かいないか探していたんです。そうしたらこの家を見つけまして、ノックしたけど返事が無かったので、お邪魔しようかなと」
「お邪魔して何をしようとしてたんだ?」
「何をしようとしてたんでしょうね?」
よくよく考えてみたら何をしようとしていたのかわからない。ただ、目の前に家があって誰もいなかったら入るものだろう。鍵もかかってなかったし。
「まあ、いい。さっさと町に帰りな」
邪魔者を追い出すように手を振る。
「いやいや! 待ってください。せめて町の方角を教えてくれませんか?」
「あ? 町から来たなら知ってるだろ。俺は知らない」
せっかく第一異世界人に会うことができたというのに、その次への手がかりが途絶えてしまった。
「知らないってどういうことですか! ずっと一人で暮らしてるんですか?」
「ああ、そうだよ。まあ、いろいろあってな」
俺は頭を抱えて机に突っ伏す。
「使えねぇ」
「なんか言ったか?」
「いえいえ、何も」
どうしようか。ようやく見つけた頼みの綱が、役に立たないことがわかった。また、あてもなくさまようことしかできないのか。
突っ伏した状態のままいると、目の前に座った男は立ち上がった。片目でその様子を確認していると、奥の部屋に行ってしまった。
しばらく無心にその場で動かないでいた。すると、奥から足音が聞こえてくる。男が戻ってきたとわかった。ついにこの屋根がある場所からも追い出されるのかと、覚悟した。
「ん」
一言だけ発された言葉に顔をあげる。目前には小包が突き出されていた。これが何か分からず、呆然とする。
「さすがに何も持たせず帰らせたら酷い奴だろ。もってけ。数日分の食料は入ってる」
それは両手で収まるくらい小さなもので、せいぜい一日持つかどうかの物に思えた。
「はぁ、ありがとうございます」
しかし、感謝を口にしないわけにはいかない。何故なら、これが無ければ、そもそも食べるものも無く飢え死ぬところだったからだ。まあ、一日二日延命されたにすぎないような気はするが。
「じゃあ、早めに行くといい。暗くなったら大変だからな」
半ば追い出されるように玄関まで背中を押された。
「町に行けるといいな」
「はい、頑張ります。ありがとうございました……」
口にするだけならただの感謝の言葉を述べ、家を背に歩き出す。
日はまだ高く、輝いている。暑くも寒くもない気温に感謝しながら、また歩き出した。
貰った小包を開く。
「え? なんか広くね?」
小包の中はリュックぐらいの大きさがあった。中と外を見比べるとわかる。明らかにそんな量は入らない。
「魔法じゃん」
そう呟くように言って気づいた。
「魔法……魔法だ! やっぱりあるんだ! すげぇ、嬉しい」
中身は数日分の食料と言っていたがそれ以上にあった。さらにナイフやランタンなどの森を歩くのに必要なものも入っていた。
俺はその場にへたり込んだ。そして、こう呟いた。
「ありがとうございます」




