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ヤオヨロズ──中道録  作者: 隼理史幸
デイブレーカー
24/93

で、みんなはどちらの努力を選ぶと思う?

九龍とミシェルは校舎へと戻り、二年生の教室のあるフロアへと移動していた。


既に放課後の時間であり生徒がまばらになってきたものの、二人はゴミ袋の中から回収した制服の持ち主らしい男子生徒を見つけられずにいた。


「…いないね。体操服のジャージ姿のヤツ。そいつのクラス、わからない?」

「残念なことにこいつ、生徒手帳持ち歩いてないようでな。そこまでわからん。困ったな、先生方にこれを渡すのは悪手だよな?」

「うん。下手に騒ぎになるようなコトになるとエスカレートする可能性は十分にある。ボクも経験があるよ」


経験がある。ミシェルの口からそれを聞いた九龍は顔をしかめる。辟易する、と言いたげに彼は大きく溜め息を吐いた。


「お前、本当に敵多いな。呪われてるのか?」


その言葉を聞いたミシェルは、彼のなんでもない問いに対し否定するでもなく、自身の憂いともとれる感情の混ざった口調で答える。


「当たらずとも遠からず、かもね。ボクはこの『大人』でもなく『子供』でもない者たちの空間において邪魔な『異物』なんだろう? 横一列で綺麗に並んだシステムに紛れ込んだ『バグ』。そんな邪魔者は排除しなきゃ、ってね。たぶんそいつの持ち主を排除しようとしてるヤツも同じ考えだと思うよ」


ミシェルはそう言って九龍が大事に抱えている制服を指差す。彼はそのような言動を耳にすると、不意に彼女との出会いを思い出していた。


「制服…隠されて…。そういえば、以前も似たようなコト無かったか?」


ふと飛び出た疑問を聞いたミシェルは、細い指を顎に沿えて考える素振りを取る。三秒程の間を置いてから彼女は頭の中に浮かび上がってきた記憶の欠片を口にする。


「ああ、あったね。あの頃は確か、バカみたいに寒い11月だったっけ? 今考えても随分不思議だよ。ボクに口を利くような酔狂、クラスのマドンナに罰ゲームで告白させられるよりハードじゃないかい?」

「そうか? 寂しそうにしてるヤツに声かけただけだろ? 誰にだってやろうと思えば出来るコトなはずだ」


その悪意の一片すらも感じ取れない九龍の言葉に、耳に届けたミシェルは溜め息を深く吐く。


吐いた息の中には彼に対する感心と呆れ、そして彼以外の彼女の知る不特定多数の人間への諦観が混ざりあっていた。


それが次第に漂う空気に消えていくのを吐いた本人が見届けてから、今度はその感情を直接言葉にして伝える。


「クロウの言う『誰にだってやろうと思えば出来る』コト、実際に出来る人なんて両手に収まる数しかいないんじゃないかな?」

「それは流石に悲観的過ぎないか? 困っている様子の子がいたら気にかける位はするだろうさ」


その意見に対しミシェルは否定の感情は現さず、むしろ肯定よりの相槌を打つ。


が、それの直後に彼女は九龍に向き直り目を見てしっかりとした口調で話す。


「クロウ。キミは悪化の一途を辿る世話焼き体質のせいで忘れてるだろうけど、ボクは『ただの子供』じゃないだろ?」


自身に関係のあることを口にしようとするミシェルはまた小さな溜め息を浅く吐く。


「傲っているみたいであんまり言いたくないけど、ボクは周りから『優秀と認められた子供』だ。人とは異なる、あるいは突出した技能や能力、外見、なんでもいい。兎に角みんなと違う者が現れると、周りの集団の行動はおおよそ2パターンの努力を行う。わかるよね?」


その問いかけに、九龍は聞き覚えのある内容であるコトに気がつく。今よりほんの少しだけ昔、彼女の口から伝えられた全く同じ内容の質問に対して回答を言い放つ。


「そいつと同じ、もしくはより高い場所へと登って行ってやろうとする努力か、あるいはそいつを自分達よりも下に叩き落とすか、はたまたそれを排除する努力か、だろ?」

「そ。で、みんなはどちらの努力を選ぶと思う?」


再び九龍へと問う彼女の口元は緩んでいるようで、それとは反対に目には憂いをたっぷりと含み、彼の懐に抱えてられている持ち主を待ち望む学校の制服をただただ見つめていた。


九龍はミシェルの瞳に映るその畳まれた制服に対して、自分の身に起こった出来事を頭の中に呼び起こされているのだとうっすらと悟る。


「…後者だろ? 以前もそんなことを時たま愚痴るコトがあったしな。覚えちまったよ」

「そう。ま、当然と言えば当然か。そっちのほうが楽な上自尊心も満たしてくれる。実に最善の選択だ。──反吐が出る」


ミシェルはそう吐き捨てると、廊下の窓ガラスに寄りかかり、天井の切れかかった蛍光灯をぼんやりと見つめながらまた溜め息とともに鬱屈とした感情を漏らす。


「はぁ、まったく嫌になるよ。ぶっ壊れたレコーダーみたいに同じフレーズをグチグチと。『子供のクセに』って。年くってでかけりゃ偉いのかって話だよ。ホントにそうだったらアメリカンは偉いヤツばっかりになるじゃないか。アホらしい」


自身の学校というコミュニティにおける不満を機関銃のように吐き出しながらもミシェルは周囲の確認も逐一行っていた。


九龍も同様に周辺へと注意を払うも、おそらく体操服を身に纏っているであろうの男子生徒の姿は見つけることは出来なかった。

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