…残念ながらクロウ、ビンゴだ。
教室の掃除が完了した後、ゴミ箱に溜まったゴミを捨てる役。所謂ゴミ当番という役割は彼─九龍らが通うこの学校にもそれはあった。そしてそれはその日毎に変わる仕組みで、今日の担当は─
「じゃ、青柳君よろしく」
──九龍は嫌な顔を一切せず、全部で三つあるゴミ箱に収められたポリ袋を取り出し、それをまるでサンタクロースのプレゼント袋のように担ぐ。
その日のポリ袋の内ひとつには生ゴミでも捨てられていた様で、それらと他のゴミが混ざり合い生まれた特有の臭みが彼の鼻を襲い、ただでさえ先刻の一件で損なわれた気分をより一層損なう。
ふとゴミ当番が首を回すと、自分の隣にちょこんと佇み「臭い」と言いたげに鼻を摘み臭いを遮断する、彼より一回りは小柄で首から紫水晶のペンダントを下げた浅葱色の髪の少女が佇んでいた。
「…ミシェル」
「クロウ、手伝おうか?」
鼻を摘みながら話すため、彼女の普段とは違う声でその提案を耳にした九龍はやや首をかしげる。
「いいのか? お前クラス違うだろ?」
「この前机運ぶの手伝ってくれたろ? あれの借りを返しときたくて」
それを聞いて九龍は抱えていたポリ袋の内、空き缶等が捨てられていたものを手渡す。
ミシェルは預けられたそのゴミ袋を両手いっぱいに抱え込む。九龍は小柄な彼女がしっかりと運べるかどうかをちゃんと確認してから再び歩を進める。
「ごめん」
数分間二人はほぼ等速で歩き、目的地のゴミ捨て場まであと少しというところでボソッとした口調でミシェルが口を開く。
「俺は謝られる様なことをされたか?」
何事か、という意図で九龍が訊くと、ミシェルの方はやや俯いた様子で答える。
「いや、さ。クロウ、教室で掃除してるときなんか揉めてたよね? その、ボクがらみで」
ミシェルの歯切れの悪い口ぶりに、九龍は軽い溜め息と共に肩をすくめ、そして彼女の方を向かずに話す。
「はぁ、別にお前の気にするほどのコトでもあるまい。卑怯なヤツには言わせとけばいい」
「…ボクだけならいいよ? あんなヤツら、捨て置く程度のモノさ。けどボクの周りの人にも厄介かけることになるのが嫌なんだよ。ああいうセコい叩きたがりは自分の起こす被害なんて欠片も想像しちゃいないからね」
「ま、そりゃごもっともで」
そのようなやりとりをする内に一行はゴミ捨て場に到着し、指定された場所に抱えていた異臭漂う袋を投げ捨てる。
「ふう、やっとこさ臭えプレゼントとオサラバだ」
解放された、という気持ちを思いきり前面に出すように大きく伸びを行う九龍。その隣に立っているミシェルはゴミ捨て場の別区画に男子生徒の数人─彼女が視認出来た限り三~四人のグループが固まってなにかをしているのを見つける。
「? クロウ、あれ、変じゃない?」
ミシェルはその不振な一団に眉をひそめつつも九龍のワイシャツの裾を軽く引っ張り自分の見ているそれに気づかせる。
「ん? ああ、確かに。ただゴミ捨てに来たにしては人数がやや多いし。それに、どこか面白可笑しいってニュアンスで笑ってないか?」
「うん。そいつは同感。あ、連中どっか行くよ」
九龍とミシェルは凝視していたその一団が完全に立ち去っていくのを確認してから、二人はそれらが群がっていた場所に移動し、周辺の物色を始める。
「…ゴミ袋ばかり、か。何か不審なものは無かったか?」
「…残念ながらクロウ。ビンゴだ」
九龍がそれを耳にしミシェルのいる方へ向くと、彼女は幾つか捨てられていたゴミ袋の内ひとつの結びをほどき中身を取り出していた。
ミシェルはその中に捨てられていたものを彼の目にもしっかりと映るよう、ばっと両手で広げて見せる。それを視界に収めた九龍は怪訝な表情を浮かべる。
「うわっ、男子の制服…? しかも上下かよ?」
「大方体育の授業で着替えた際にくすねてきたんだろうさ。うちは体育のときは女子にはちゃんと更衣室使わせてくれるけど男子は教室でだろ? 実にセコい」
「…冗談抜きで危なかったぞ。今日は確かゴミの回収業者来る日だったはず。俺らが見つけてなけりゃあと数刻で…」
「…なんにせよ、胸くそ悪いコトに変わりないね」
九龍は怒気の籠ったセリフを吐くミシェルの表情をうかがうと、彼女の顔は口以上に憤っているのを目にして、その心境もまた察した。
「さて、こいつの持ち主に届けに行くか。この夏服、襟元のとこに学年の証が止められてるから…、こいつは二年生か」
「名前、わからない?」
「ちょい待ち。確かズボンの裏側にでも…、幕下…塀夜?」
名前と学年の確認を終えると、九龍はあらためてその制服を簡潔にかつ丁寧に折り畳み抱える。
「さ、クロウ。名前もわかったならこいつの持ち主のもとへ措いてこよう?」
ミシェルがそう言いながら早々に校舎へ向かい歩き始めるので、九龍もその制服を大切そうに抱えながら足早にそれについていくのだった。




