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ヤオヨロズ──中道録  作者: 隼理史幸
デイブレーカー
25/93

どうして『子供』であることが悪いの?

ミシェルは一通り見回した後、自分の浅葱色の髪を弄りながら九龍に向けひとつ提案を持ちかける。


「こうなったら仕方ない。ちょっと職員室に行ってクラスと座席を教えてもらおう」

「? 大丈夫なのか? お前がさっき言った、所謂チクりと判断されないか?」

「そこはちゃんと伏せる。友達から伝言を頼まれた、とか適当に理由をでっち上げれば問題ない。どっち道顔もわからないヤツをただ待ってるよか建設的だとボクは思うよ?」


その提案を受けた九龍は二秒程の思考の後、承諾の意味で首を縦に振る。彼女はそれを受け、「よしきた」と言わんばかりに一階にある職員室へ向かうため階段のある方角へそそくさと歩き出す。


九龍はその後ろ姿を駆け足気味に追い、隣に並ぶ形で共に職員室へと向かうため階段を降りてゆく。しばらく歩いていくと、二人は目的地の扉の前に到着する。


そこでミシェルは唐突に九龍から畳まれた制服をふんだくると、彼に向け親指を立てて「行け」という意図の合図を飛ばす。


「お前は行かないのかよ?」

「こんなん抱えたまま行けるかバカモノ。テキトーにクラス担任見つけて訊いてこい。任せた」


「面倒事を押し付けられた」という顔を露骨に浮かべつつも、九龍は肩を落として職員室に一声かけてから入室する。それを見届けた後、ミシェルは何気なく携帯端末を手に取り、今日のニュースを流し読みする。


一方の九龍は壁に張られていた、教諭の席配置が印刷してある用紙に目を通していた。


この学校の職員室は各学年を任されている教諭ごとに幾つかのブースに別けられており、そこでも更に細かく担当する教科別に配置されているのだった。


九龍はその用紙に一通り目を通し確認すると、二年生を受け持つ教諭が集中しているブースへと歩を進める。しかし、


「…いねぇじゃん」


彼はブース内が殆どもぬけの殻であったことを目の当たりにして大きく溜め息を漏らす。


周りを見渡すと、備えつけられたホワイトボードに今日の予定が水性ペンで書かれており、そこに本日は職員会議であると記載されていた。


「マジか。だからみんな引き払っているのか…」


九龍は自分の左腕に巻かれた腕時計に目を配る。その時計では既に短針は四時を、長針はそろそろ半周を回らんとしていた。


「ち、会議はまだ終わりそうにないな。今日は豚肉安いんだから早くスーパー行きたいんだが、そうは問屋が降ろさないか…」


他に何か無いか思案するも、彼の頭の中では結局何も思い付かず、仕方なくその場を後にするのだった。


九龍は自分が入ってきた扉から退室すると、その近くにはとても暇そうに佇んでいたミシェルが制服を雑に抱えながら携帯端末をいじっていた。


「わりい、今日職員会議みたいで先生方には…」


少し言い訳がましい、と思いつつも九龍は成果を報告すると、それを聞いた彼女は特に気にしていないような素振りで携帯端末の画面を見たまま言う。


「マジか~、まぁ当たればいいか程度だったし気にすることはないさ」

「そっか。ところで、お前は何をしてる?」

「ニュース見てる。暇だったから」


しばらくして、一つの記事に目を通した途端に眉を吊り上げるのを見た九龍が、急にどうしたのか、と訊くと彼女は無言で自分の端末の画面を彼に押し付けるように見せる。


「何々、十四才の少年自殺? 遺書から六歳以上は歳が上の学校のOB数人から万引きやら何やらを強要された…? 胸くそ悪いな。何が楽しくてこんなことする? 大人としても人間としても失格の一言だ」


率直な感想を述べた九龍に、ミシェルは何処か悲しみとも違う悩みを口にする。


「クロウ。ボクは前から疑問に思っていたことがあったんだ」

「疑問?」

「どうして『子供』であることが悪いの? ってさ」


その問いかけに対し、九龍はその意図を掴みかねていた。どういうことだ、と言いたげな表情を彼が浮かべているとミシェルは前髪を指に絡めながら、意識的に声色を変化させて言う。


「…ごめんごめん。困るよねこんなこと訊かれても。暗いニュース見たりしてちょっと鬱な気分になってただけだから」


あっけらかんな様子でコーティングした言葉を聞いた九龍は、彼女のポーズにある裏側を察しつつもそれ以上の詮索をすることはなく、彼もまたそれらしく明るいトーンと表情で応対する。


「そーだな。取り敢えず、その制服を見つけた場所、ゴミ捨て場に戻ってみようか? もしかしたらまだ探しているかもな」

「そっか。確かにその線は無くもない。採用。さっさと行くとしよう」


意見が一致したところで、二人はその場を後にする。目的地に向かう道中、二人の間の会話は自然と多かった。まるで先程までの会話の内容を忘れようとするかのように。

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