⑬ ――僕はまた、次の予定を約束する。
最終話です。
――目を開けると、重たいホテルのカーテンから明るい光が漏れている。
ユニットバスからシャワーの音が聞こえる。
(朝起きたら、枕で顔を見合わせて「おはよ。」とかやるのかなと思ってた……)
――と、メイセイがひょいとユニットバスから出てくる。
「あ、おはよ。」
照れ笑いしながら言うメイセイ。
(「おはよ。」って言った!)
「おはよ……」
僕は普通を装って返してみたが、
堪え切れずに、あ――ッと叫びながら、使っていない方のベッドにダイブした。
「なにこれ!恥ずかしいじゃん!!対応わかんないんだけど!!」
僕は枕をかぶって叫んだ。
「そうなの?」
メイセイが僕を覗き込む。
「あんなに野獣だったのに?」
「ええ!?やめてよ!あんなん普通でしょ!?」
「昼は観音、夜は魔王……スバルくん、かっこよかったよ!」
「かっ……かっこいいわけないでしょ!」
僕は枕をメイセイの顔に押し付けて、話題を変える。
「弁当食べようよ!昨日食べなかったし。」
「そうだ、一食浮いた。」
「じゃあ、お昼はちょっと贅沢しようよ。メイセイが昨日言ってたラーメンとか。」
「お、やった。」
僕たちは冷たい弁当を食べ始める。
「年明けにドクターグリーンが引退するし、ドクターグリーンに会う旅行とかしたいよね。」
「あー、時刻表で探したい。紙のやつで。」
そう言った割に、ふとメイセイは静かな声を出す。
「でも、スバルくん、受験だし。O大でしょ?第一志望。」
「そうだけど。」
――どうしてそんなに、寂しそうなの?
口から出そうな言葉を飲み込む。
だって……わかるじゃないか。
自分がゲイだと知って、
二年間黙って僕を好きでいてくれて、
「死ぬまでに一度くらい、スバルくんと恋人してみたかった」と言って、
僕から離れようとしたメイセイが、
今だって、【僕といられなくなる未来】を抱えていることくらい、わかるじゃないか。
そして……
――それがパパッと解決しなさそうだってことくらい、
僕にだって、わかるじゃないか。
だったら、今は……
――今は……
「超いいこと思い付いた!超電導いいこと!」
僕は最後にとっておいた生姜焼きを口に放り込むと、メイセイに言った。
「あのさ、僕の二次試験終わった夜に、サンライズ江戸に乗ろう!」
「エッ!夜行列車!?」
「うん。乗ったことある?」
「ない!乗りたい列車TOP5に入ってる。」
「乗ろうよ!それを次の旅行!って思って頑張る。で、試験のできが良くても悪くても乗る。」
「それ、励みになんの?」
「なるよ。」
僕はメイセイの弁当に残っていた赤いウィンナーを手で食べる。
「アッ……最後に取ってたのに……」
僕は空の弁当箱をゴミ箱に突っ込んで、メイセイを押し倒して一緒にベッドに転がる。
「合格発表があったら、またどこか行こう。
僕が大学に入れたら、バイトするから、その金で来年の夏も一泊旅行しようよ。」
メイセイは、目を見開き、その綺麗すぎる顔を赤らめる。
僕とメイセイは互いの身体に手を回す――宝物のように優しく。
「覚えてる?『ダブルスタックいいスよね』ってメイセイが言ったの。
今、僕たち、ダブルスタックじゃん。」
「ホントだ。」
僕たちは目を見交わすと、
見えない、どこにもないことを約束するみたいに、何度も何度もキスをした。
US貨物のダブルスタックみたいに、
きっと僕たちは、重量級の悩みも長距離運行できる。
メイセイがそれを信じられるまで……
――僕はまた、次の予定を約束する。
――――
――――
***
帰り道、僕たちはそっと指先をつないで、
小さな声で歌っていた。
お山の中ゆく 汽車ぽっぽ……
――機関車と機関車が
前引き 後押し
なんだ坂 こんな坂
なんだ坂 こんな坂
トンネル鉄橋
トンネル鉄橋
トンネル トンネル
――トン トン トンと のぼり行……
――――
(完)
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