8 花の色はそれぞれで
アナベルは自分の席について思わずため息をついた。
ここは教室。
学校生活に早く馴染みたいが、かなり苦労していた。
最初から判っていた。
藍のように簡単に心を許してくれる
少女ばかりではないということは。
特に手強く感じているのは蘭子。
初対面の時からずっと、かたくなな態度が変わらない。
「……ねえ蘭子、歴史のレポートやった?」
前の席に座っている蘭子に、尋ねる。
「えっ?」
「大丈夫? 締め切り、今週だよ」
「……そうだっけ?」
そう答えると、蘭子は居心地悪そうに、黙り込んでしまった。
「蘭子くん……君が宿題を忘れるのは、
今年になってからこれで3度目だ。
どうしたら君を救ってあげられるのか考えることに忙しくて、
俺のちっぽけなハートは休むいとまもない」
蘭子の右隣の席の騎士が、両手を胸にあてて嘆く。
セリフは蘭子へ向けられていたが、結果的にアナベルへの助け船になった。
「もう、騎士ったら……そんなにあぁしのこと心配してくれてんの?」
「ああ、君のため俺の知識の一部を貸し出すことも厭わないほどに。
ベルくんだって同じ気持ちだろ?」
次に、騎士は、アナベルの右隣の席の藍の方を向いた。
「おや? 藍くんのヘアピン、新しいのかい?
君の星の瞳によく似合っているね!
アイドルという、きら星を目指す君にピッタリだ!」
「アイドルになりたいの?」
アナベルは新しく得た情報に、とまどう。
だって、ここの娘がそんな夢を持つなんて、
いくらなんでも、あ・り・え・な・い。
「うん、歌とダンスの自主トレもしてるけど……
こんな生活でしょ? なかなか、ね」
アナベルの左隣の席は椿だ。
生徒達の中では一番大人っぽい娘。
時折、遠くを見つめるような表情をすることがある。
今も自分の身を抱きしめるように腕を組むと、またあの表情を浮かべた。
「……ねぇ、藍、言おうかどうか迷っていたんだけれど。
あなたに、もうじき重要な出会いが訪れるわ」
「えっ? 唐突にどうしたの?」
椿の前の席にいる純が、アナベルに解説する。
「椿は、カード占いが得意なんだ」
「へえ、すごい!」
「でも……藍にはもう彼氏いるじゃん。
あぁしに写真見せてくれたよね」
蘭子が得意げに口を挟んでくる。
「そうね。この出会いというのは必ずしも恋愛的な意味ではないかも。
でも、きっと新しい出会いがやってくる」
「……だけど、あたしたち……」
藍のつぶやきは、授業開始のチャイムにかき消された。




