4 日常を変えるもの
学園に戻ると、瑞花ユキ先生が校門の前で待ち構えていた。
「うっげっ!」
蘭子が、弾かれたように椿の背後に隠れた。
「みんな、お帰りぃ。怪我した人はいないかな?
ゆっくり休んで下さいね。
それから……五十鈴さん」
「……はい……なんでしょうか」
「見ましたよ、この目ではっきりと……大きな穴でしたね。
道路のど真ん中にぽっかり」
蘭子の武器は神楽鈴。
シャリン コロン ゆらぐ鈴の音。
乱舞する鈴蘭。
大気の澱がふるい落とされる。
重力を操作できる音色だ。
戦闘の都合上、残念ながら周辺が害を被ることも。
制服の左胸の、イベリスの花の形の校章には、
カメラが内蔵されている。
ユキは学園にいながら、戦闘の模様を観察することができた。
「うぐぐっ……ごめんなさい」
「とはいえ、一般の方を巻き込まず、
被害があれだけで済んだのは不幸中の幸いでしたね。
財団の方には私から謝っておきます。
……修繕費、いったい幾らかかるのやら」
ユキは深くため息をついた。
どうやったら、財団の経理担当者の小言を回避できるのか。
この時、ユキは自分の視界にしっくりこない感覚があることに気付いた。
クリーム色の制服にまぎれこんだ、一点のブルー。
「そちらは? ……あっ。ど……どなた?」
他の少女たちに気付かれぬくらいの、一瞬の困惑。
「はじめまして。あたし、鞠屋・サンライト・アナベルっていいます。
ここにわたしと同じ能力を持つ娘たちがいると聞いて、会いたいなって。
それでここまで来ちゃいました」
藍が、うれしそうにうなずいている。
「……どちらからいらしたの?」
「生まれたのは日本です。
けど、ずっと両親の故郷のテキサスで暮らしていました」
「そう、そんな遠くから……ですが、むやみに知らない方を
校内に入れるのはちょっと……」
「でもこんな時間だもの。
今から追い返すのはあんまりじゃないかな? ユキ先生」
「藍くんの言う通りだよ。それに俺たちが一緒なんだ。
仮に何か企みがあったとしても、そうそう悪さなどさせないさ」
騎士も、藍に賛成の意を表した。
ユキは、またため息をつく。原因は雪のようにふり積もる。
「……しかたないですね。
念のために身元照会はさせてもらいますが、
しばらくの間、ここに滞在することを許可します。
後で私の執務室まで来てください」
小さな小石が投げ込まれた。
静かな水面に波紋を広げるのか、
はたまた歯車がきしみ始めるのか。




