37 高嶺(たかね)の花
ドアが音もなく開く。ユキが入ってきた。
頬を紅潮させ、瞳は異様に輝いている。
「司令官……」
「なんだ、瑞花くんか。何か用事か?
見ての通り、わたしは今忙しいのだが……
毬屋・サンライト・アナベルの排除は? できたのか?」
キャンディタフト財団司令官は、にべもなく言った。
「……させません……」
「何?」
「そんなことは、させません!
アナベルも、あの娘たちも……今すぐに解放してください!」
司令官はため息をついた。
「前にも言っただろう? 理解したのかと思っていたよ。
あれらの排除は、この財団の……桜子様の決定事項だ。
きみの一存で左右できるような事柄ではないぞ」
「やはり……やはり耳を貸してはくださらない、と。
では……これならどうです!」
室内に緊張が走った。ユキが司令官を羽交い締めにし、銃を突きつけたから。
他のスタッフの慌てぶりとは裏腹に、司令官は落ち着き払っていた。
「瑞花くん、一時的に気が高ぶっているだけか?
それとも……ふっ、ミイラ取りがミイラになってしまったとか?」
「どうして……どうしてあの娘たちに感情を与えたのです。
こんなふうにさんざん利用したあげく、必要なくなったら即座に切り捨てる。
余計に辛い思いをさせるだけです!」
「子どもみたいな駄々をこねるな。感情を与えたのは高嶺氏だ。
われわれが必要だったのはあれらの戦闘用アンドロイドとしての能力だけ。
あれらの感情など、考慮する必要がない、だろう?
なぁ、瑞花くん、しばらく休養を取ったらどうだ。
そして、少し頭を冷やすんだ」
その言葉を合図に、ユキの背後から警備員が接近し、ユキは拘束された。
両手にはめられた手錠。
その冷たさは手首を伝い、ユキの心を強く締め付けた。
「私を倒しても、この作戦は止まらんぞ。
これは桜子様のご意志なのだから」
「桜子様……桜子様って、いったいなんなんですか?」
「この財団の中央部首脳だ。
私くらいの階級になってもまだ、簡単にはお会いできない」
ユキは巨大モニターの前に連れてこられた。
「よく見たまえ、瑞花くん。これこそが、あれらの本来の姿だ」
巨大モニターには、学園での戦闘の一部始終が映し出されていた。
敵に囲まれる少女たち。瞳が燃えるように赤く染まる少女たち。
司令官はモニターから目をそらし、吐き捨てるようにユキに向かって言った。
「あれらはやがて、躊躇なくわれわれにも牙をむくであろう」
「彼女たちが戦わざるをえないようにしたのは、あなたたちではないですか?」
「だが相手が人間だろうとおかまいなく、ああやって攻撃している。
排除する理由を作ったのは彼女たち自身だ。
現場の指揮官に伝えろ。
バーリック部隊が全滅したら、学園ごと吹き飛ばせと」
「そんな……みんな、逃げて!」
ユキは拘束された両手を、必死に映像に差し伸べた。
だが無表情な警備員が、ユキを引っ立てていった。
次回は、11月4日水曜日23:00更新予定です。




