35 爛漫少女の花道は
天井を走る足音。
数回の衝撃音の後、天窓が割られた。
ロープを伝って降りてくる影。
「今度は空から?」
少女たちは再度、螺旋通路の影に身を潜める。
「ねえ、おかしくないかな?
こんなに次から次へと……財団はバーリックを隠し持っていたの?」
純の問いかけに、騎士が応じる。
「おそらく、一個小隊分はいたかな? 車で移送してきたのだろうよ。
……人間の部隊も後方に控えているということか?
くっ、早く離脱せねば!」
次から次へと床に降り立った人間たちは、
注射器を取り出して自分に突き刺す。
興奮状態の者、無表情な者、怯えた目をした者、様々だった。
目に見える変化は腕の筋肉から始まる。
皮膚のすぐ下を、太いミミズがのたくっているような現象。
それは所々隆起したままで定着し、いびつな肉体ができあがる。
次は顔だ。顔の筋肉は身体とは逆にだらしなく垂れ下がり、
瞳はうつろになる。
少女たちの目の前で次々と変化していく、自我を失った人間。
一方で自我を得たことで、不毛な葛藤に身を投じた少女たち。
「あいつら、全員人間?」
椿が思わずつぶやく。
今まで少女たちが戦ってきたのはバーリック。
死体に薬物を投与して、生まれたゾンビだった。
だが今回のは、明らかに違う。
少女たちの目の前で、生命あるものが異形のものに変化した。
「やりづらいな、どうする?」
騎士が剣の柄に手をかけたまま、呼吸を整える。
「ぼ、ぼくたち、人間と戦うの?」
声を震わせる純。
彼女たちの脳には絶対不可侵の掟が刻まれている。
『人間を攻撃しないこと』。
この非常事態に、少女たちをしつこく縛り付ける鎖。
否応なく締め付け、危険からわが身を守ることすら難しくする。
戸惑いながらも、攻撃を受け流し続ける少女たち。
防戦一方の状況を変える術はあるのか。
一瞬の隙を突き、騎士の足元に一撃が入る。
「うっ……しまった!」
よろけた騎士。
しかし、彼女の背中を支えるものがあった。
純が背中を貸している。
背中合わせのふたりの周りに藍と蘭子と
椿がスタンバイした。
藍は香の言葉を思い出していた。
もっと遠い過去、同じ言葉を教えてくれた人がいたことも。
「爛漫少女の花道は」藍が口火を切る。
恐怖を振り払い、自身の能力を限界突破させるため。
「破滅へ至るいばら道」と純が続ける。
「一世一代」、次は蘭子。
「大見得切って」と、椿。
「見事散らして進ぜよう」、騎士が剣をふりかぶる。
少女たちの瞳が、赤色に変化した。
次回は、10月30日金曜日23時に更新の予定です。




