27 ユキの苦悩
『瑞花くん、マリヤ機関というのは知っているか?』
「ええ。確か人工生命体の権利保護のために設立された……
各国政府ともパイプがあるとか」
『毬屋くんが、その機関の一員であると考えたことは?』
「……まさか……そんな」
『われわれも迂闊だった。創設者シロウ・マリヤ。
毬屋くんの父親だろう』
ユキの頭の中身は爆発寸前だった。
アナベルが学園にやって来た当初から今までのことを、思い返す。
財団から派遣された職員ということを、生徒たちに隠すのに精一杯で、
アナベルの真の正体にまでは、気が回らなかった。
『瑞花くん、彼女を排除したまえ』
司令官はいとも簡単に言ってのけた。
ユキが受けたであろう衝撃には気にも留めず、司令官は続ける。
『それから、先日の件だ。一般市民から犠牲者が出てしまった』
「ですが、彼女たちは犠牲者が出たとは言っていませんでした」
『隠蔽だろ? 我々人間に刃向かい始める前兆だ』
「決めつけないでください。まず彼女たちに事情を聞いて……」
『その必要はない。我々は戦闘時のデータを取り終えた。
あれらをこれ以上使い続ける理由がなくなった』
「それでは、あの娘たちはどうなるのですか?
彼女たちにも夢がある、家族や親しい人たちに会いたいと
いう気持ちだって持っています。この学園から解放してくださるのですか?」
『冗談はよしたまえ。全て偽の記憶だろ?
人格を植え付けるために使用したサンプルの記憶だ。
それとも何か? 報償? 栄誉か?
そういった事柄に煩わさられずに済むから、
あれらをあの仕事に起用した。それと機密保持のため、と。
もう、決定したのだよ。あれらの排除は』
「待ってください、司令官!……司令官?」
消えたモニターを前に、ユキは頭を抱えた。
自分の無力さに打ちひしがれる。
アナベルの正体判明に続いてこれだ。
あの日の少女たちの様子を思い出す。
隠し事をしているようには見えなかった。
ユキに黙って、ショッピングモールへ繰り出し、
そこで戦闘が始まったことを報告してくれた。
そのさなか、蘭子が怪我をしたことも。
彼女たちは、むやみに嘘をついたりはしない。
たとえ自分が不利になるようなことでも、正直に伝えてくる。
ユキ自身、彼女たちのそういった性質を、大変好ましく感じていた。
一方で財団は、データ上の彼女たちのことにしか興味がない。
悪いことをするに違いないという先入観の証明のため、
現実を都合良く解釈している。
ユキの口から乾いた笑いが漏れた。
彼女たちの処分は決定事項、先日の事件は言い訳にすぎないのだ。
ユキは上着を羽織ると部屋を出た。
部屋の入り口の陰で身を固くしている藍の存在には、気付かないまま。
次回更新予定は10月12日月曜日23:00です。




