24 裏切り
「見てくれ、江藤くん。ついに実験は成功した。
この娘の名は月来 香だ。
月来香、月下美人のことさ」
「やりましたね、高嶺先生!」
江藤は本音を見せぬように注意を払いながら、笑顔を見せた。
「次に目覚める予定の娘たちの名前も、もう考えてある」
高嶺は、目の前にいる江藤の反応など、
気にならないようだった。
「桔梗 藍、観菊 騎士、五十鈴 蘭子、野茨 純、夜闇 椿。いい名だろ?」
江藤は、内心うんざりしていた。
この人は費やした時間や金銭など気に掛けない。
自分の研究にしか興味がないのだろう。
この財団の設立理由は、高嶺氏の得難い才能だ。
稀代の人形師、高嶺 草介。
アンドロイド製作の第一人者。
近ごろでは、アンドロイドの需要は高まり始めていた。
人生の欠落を埋めるため、癒やしを求めるために。
だからこそ利用価値のあるうちは、いい気分で過ごさせてやろう。
そう考えていた……以前は。
……数ヶ月後……
高嶺は、読んでいた書類をデスクに置いた。
内心に沸きあがる怒り、驚き、そして悲しみ。
様々な感情が入り混じり、今の自分がどんな表情をしているかさえ、
自覚できないでいた。
「江藤くん! これは何だ? 説明したまえ」
「高嶺先生、ナイタブエース社は、いい取引相手ですよ。
この商機を利用しない手はございますまい」
「しかし! 私の人形たちを兵器に転用しようなど……許しがたい行為だ。
我が財団の人工生命体技術は、人間の役に立つことが目的だったはずだ。
君自身、私をこの財団の理事長に据える時に、そう言ったではないか。
だからこそ私は君たちに協力した」
「……時代遅れの考え方ですね。高嶺理事長。
今までのやり方では、顧客を見つけるのは、そう簡単ではない。
わが財団とて、収入源は必要です。
特にその……あなたの『お人形』作りには、莫大な費用がかかるんですよ。
それくらいは、お分かりのはずですよね。
ナイタブエース社は、今後兵器開発に力を入れるのだそうです。
実際問題、あなたの技術はお宝の山ってことですよ。
どうしても納得できないとおっしゃるのなら……」
江藤は迷っているふりをした。とうの昔に準備は終えていたのだが。
「納得できないとおっしゃるのなら、
あなたには理事長の座を退いていただきましょう」
「君の一存では、そんな勝手なことはできないはずだ!
理事会会議にかけて……」
「会議にかけるまでもありません。
他の理事たちには賛同をいただいております。
……おい、高嶺さんを入り口までお送りしろ」
ガードマンに両脇を挟まれてつまみ出されるようにして、
高嶺は部屋を出て行った。
その後ろ姿に向かって、江藤は別れの言葉を投げつける。
「財団に対するあなたの貢献には、敬意を表しますよ。
ですが、何も持ち出さないように」
「江藤さん、江藤理事長!
高嶺氏が、サンプルを一体持ち出したようです。
どういたしますか?」
「あれだろ? 秘書として使っていた……
香とかいう……いい、放っておけ。
こっちには桜子がいる。
旧タイプ一体くらい失ったところで、どうということはない」
「大量生産を開始していて良かったですね」
「当然だろ? だからこそ、用済みのご老体には引退してもらったんだ。
高嶺氏の人形作りの才能は他に類を見ないが……
それだけだ。
時代の流れに取り残されている哀れな人物と、
心中するわけにはいかない」
次回更新は10月5日月曜日23:00を予定しております。




