21 財団の思惑
「お茶をどうぞ、瑞花くん」
今日の司令官は制服ではなく、ベージュのゆったりとしたワンピースを着ていた。
白い丸テーブルの上に飾られた薔薇のアレンジメントは、彼女のお手製。
「上質のウバティーが手に入った。君にも味わって欲しくてな」
紙のように薄いティーカップに注がれた紅色の液体。
ピシャリと脳髄を刺激するような香りが挑みかかってくる。
「さて、と……藍のことだ。詳しくきかせてくれ」
向かいに座った司令官が静かに言った。
「過去のできごとを思い出せないことがあるのだそうです。
学園に入る以前の生活を」
指令官はじっくりと味わうように、ユキの話しに耳を傾けている。
「今まで、こうであると思い込んでいた自己像が崩れ落ちてしまった、
そんなふうに見えます」
「しかし、あの年頃の子としては、わりと健全ではないかね?
自分のあり方に疑問を持ち、悩んでしまう。
ティーンエイジャーには、ありがちだろう。
むしろ我々の『実験』は成功だったのだと、誇らしくさえ思うよ」
「ええ……ですが……本当は存在しない過去の記憶を
思い出せないと苦しむ子に、私はどう接したらいいのか……」
「君が教師としてコントロールするんだ。
ナイタブエース社は、引き続きバーリック駆除に使ってほしいと、
巨額の寄付金をよこしてくれている。
万が一にも彼らの業務に支障が出るようなことはあってはならない」
ナイタブエース社というのは、バーリックを生み出す原因となった薬、
レーズンブロリックを製造した会社だ。
「では、今後も彼女たちを利用すると……」
「彼女たちはそのためのコマだ。
あの娘たちは学生である前に……道具だ。
それを忘れるな」
「道具だなんて。
あの娘たちは呼吸し笑い、恋もする。普通の少女です!」
ユキの声は震えていた。
「ナイタブエース社は、自分たちの不祥事をもみ消すため
彼女たちを利用しているだけではないのですか!」
「口が過ぎるぞ、瑞花くん。
彼女たちがああしていられるのも、
ナイタブエース社のおかげだ。
ナイタブエース社は今後、人工兵士の開発を加速させたいそうだ。
そのためにも、彼女たちの戦闘中のデータが必要なのだ」
学園に戻ると、生徒たちもどこかから帰ってきたばかりのようだった。
勝手に外出したようだが、
彼女たちにはできるだけ、のびのびと生活してほしいという思いもあった。
今日は叱らないでおこう。
それにしても遊びにいった先ですら、バーリックに遭遇してしまうとは。
少女たちに平穏な日々が訪れることなど、あるのだろうか。
蘭子が片脚をひきずっていた。
騎士の肩を借りて、跳ねながら歩く姿は痛々しい。
「蘭子さん、怪我をしてるじゃないの!」
「ユキ先生……へへへ、これくらいへっちゃらっす!」
「早く処置室へ行きなさい!」
蘭子の膝は、皮膚がめくれて、中身が見えていた。
機械部品が詰った中身が。




