16 人知れず咲く花
これで何枚目か。
何度も同じ形の扉が現れる。
行けども行けども、似たような部屋。
建物に、閉じ込められた?
他の娘たちは、どこ?
自分の現在地を確かめようと、アナベルは窓に駆け寄った。
すっかり日も暮れて、窓から見えるのはザワつく木の葉だけ。
こうなったら強行突破しかない。
いったん脱出してから、他の娘たちを探そう。
銃のグリップをなでる。これでいけるか?
弾のカートリッジを入れ替える。対バーリック用から実弾へ。
ガラス窓の一点に向けて、何度か発砲した。
衝撃音とともに砕けるガラス窓。
その時、背後に一人の女が現れた。
どこからやってきたのだろう。
「あら、あなたは?」
黒い宝石のような瞳が、旧知の仲のように笑いかける。
深い森のような緑色の髪。
白いワンピースをまとった、ミステリアスな存在。
月下に立つ女王の姿。あるいは、彼女が噂の魔女か。
ほのかに甘く、でも芯のある香りが漂ってきた。
「もう脱出できたの? 早かったわね」
アナベルは悟った。自分たちをここへ呼んだのは彼女だと。
「あたしたちをここへ呼んだのは、あんたね。何者?」
アナベルが銃を向ける。
「わたしは月来 香。
あなた、お名前は?」
「毬屋・サンライト・アナベル。あんたのこと、知らないな」
「そうでしょう。財団には見つからぬようにしてきたもの。
毬屋……そう、あなたが毬屋さんの」
「養父のこと、知っているんだ」
「ええ、昔一緒に働いていたの。いいかただったわ」
「他の娘たちをどこへやった?」
アナベルは、まだ銃を構えたままだ。
「みんな、無事よ。
あの娘たちには、封印された記憶があるの。
封印を解除すれば、あの娘たちを守る術がひとつ増える。
そのために、各々記憶の部屋に入ってもらう必要があったの」
「あんたがやったんだ。どうやって?
あたしたち、バーリック退治の通報を受けてここに来た。
どこにもいないじゃない。あんた、どういう……」
しばらく考えを巡らせたアナベルは、何かに気付いたようだ。
銃をホルスターに収めた。
「そう、わたしは、あなたたちの……先輩って言えるかしら。
あなたがたに幻像を見てもらった。
ごめんなさいね、残酷な仕打ちだったかも知れない。
でも、財団があのままなら……
この先、あの娘たちはとんでもない事態に遭遇する」
「財団があのままならって……あんた……知っているんだ」
「見た目通りではないということをね。
アナベルさんもどういうことか気付いているんでしょ?」
「あたしが知っているのは、
財団のおためごかしなんて、野豚にでも喰わせておけってこと」
月来の瞳の中を、光が楽しげに踊った。
「面白い娘ね。高嶺さんに頼まれていたの。
自分がいなくなった後のことを頼む、と。
アナベルさん、あなたがすぐに脱出できたのは、
封印された記憶が存在しないからでしょうね。
この先起きる事態に、あなたの強さはきっと支えになる。
どうかあの娘たちを見捨てないであげて」
アナベルはホテルの入り口にいた。
次々に戻ってくる少女たち。
お互いに何が起きていたかは、話さずに。
湿り気のある風が一迅吹き付ける。
野放図に伸びた枝を揺らして。
廃墟が見せたひとときの夢。




