14 手折らば手折れ
地下に落ちたかと思ったが、どうやら違ったようだ。
色褪せた花柄の壁紙、どんなに乱暴に扱っても壊れない頑丈な家具。
昔、孤児院で使っていた部屋に似ている。
不思議と部屋の外に出たいとは思わなかった。
どちらにしろ出口が見つからない。
純は窓の桟に肘をつき、外をながめる。
雨が降り始めたようだ。
間断なく降り注ぐしずくと音。
はずむ雨粒を静かに見ている。
帽子の下で、純の緑色の瞳が笑みをふくんだ。
「ボク、雨の日って好きだな」
誰もいないことはわかっていたが、独り言は心の安定剤。
流れ落ちる雨の粒は、地面に衝突し水たまりになる。
変化していくさまを見つめるのが好きだった。
何者かの気配に振り向く。
バーリックが一体襲いかかってきたのだ。
「ここにいたんだね」
右太ももに付けたホルスターから鞭を引き抜く。
今日の敵はそれほど脅威ではない、そう感じる。
だが、次から次へと湧いて出てくる。
純の鞭がうなりを上げた。
鞭についているたくさんの小さなトゲが、
容赦なくバーリックの皮膚を傷付ける。
抵抗すればするほど、傷が増え、
傷口から侵入した毒にジワジワと侵されていく。
可憐な見た目に油断していると、
いつの間にか致命傷を負っている。
「ボクを折れると思った? やってみせてよ」
バーリックと戦っていたはずだが、
目の前にいたのは、知っている人。
以前純がいた孤児院の院長だった。
鞭を放りだして駆け寄る。
「院長先生! 見てくれた? ボク、役に立ってるでしょ?」
『純ちゃん、その調子よ。
あなたには特別な才能がある。
それを使わないのは自分への裏切りよ。
たとえそれが破滅へ至るいばら道だったとしてもね』
「破滅へ至る……いばら道……」
ふと気付くと院長先生の姿は消えて、ホテルの入り口に戻っていた。
「おやおや、みんなどこに行っちまったんすかね?」
蘭子は口ではそう言うものの、しばらくここで楽しむ気だった。
ここはホテルのカジノルーム。
ざわめきは煙幕。喜怒哀楽の展覧会。
たばこの香りが五感を塞ぐ。
ルーレット盤は舵輪みたい。
カラカラと警戒な音を立てて回転する。
自分で行く先を決めることができない船だ。
常にギリギリの場面で素早い選択をしてきた。
二者択一の場面で迷う必要などない。
「黒!」
『一世一代の大勝負、最後の賭けです。よろしいですね?』
蘭子は、胸がキュンと収縮するのを感じた。
気まぐれなボールの行方だけが、勝敗を握っている。
固唾を飲んで見守る蘭子。
「一世一代……大勝負」
ボールが止まる瞬間、堅く目を閉じた。
ルーレット盤の音が止んだ。
目をあけると、そこはホテルの入り口だった。




