10 みちくさ
少女達は基本的には戦闘の時以外、めったに学園の外には出ない。
だから、ぽっかりとできた移動のための時間は、
貴重なお楽しみの時間でもあった。
少女たち専用のバイクは風を切る。
解放感と疾走感。
その道はどこまで続く?
近くの川から子供たちの賑やかな声が聞こえた。
「あっ……ねぇ、ちょっと寄っていこうよ」
バイクを停めた少女たち。
「寄り道はできないよ、蘭子。
今は午後3時。寮まで20分。
3時30分に集合って、ユキ先生に言われている」
「サンキュー、藍。だったら、10分の余裕があるじゃん。
バーリックが出るかもしれないっすから、
あぁしらが子供さんたちを見守らなくちゃ」
蘭子は川の方へ、
さっさと駆け出していってしまった。
そこは川と海が交差している場所。
川岸は岩場で、川に沿って下ると
砂浜にたどりつくことができる。
地元の子供達に人気のある遊び場だった。
「しかたないなぁ、蘭子だけここに
置いていくわけにもいかないから、わたしらも行こうか?」
藍の一言で少女たちは川岸へ向かった。
時折吹いてくる優しい風が髪をもてあそぶ。
深呼吸すると、肺の隅々まで浄化されるよう。
水面は太陽の熱に浮かされ、ギラギラと踊っていた。
「そろそろ帰らないと」
藍が気遣わしげに時計を確認する。
「そうよね。蘭子! どこですの?」
椿は、濡れた手足を拭きながらあたりを見回している。
「ねぇ、あっちにいるかも。わたし、見てくるね。
藍たちはここで待ってて」
そう言い残すと、アナベルは洞窟の見える方角を目指した。
嫌な予感がする。
一方の蘭子は、
ひとりで洞窟へ入っていく少年の後をつけてきた。
「おおい、何をしているんすか?」
少年は洞窟の中でしゃがみこんでいた。
「カニがいるの。お姉ちゃんも見てみる?」
「うっほほほ。かわいいね」
指を差し出すと、小さなカニは障害物を察知して、
向きを変えてセカセカと動き回る。
「横向きに歩くって、うちのバアちゃんが言ってた。
ホントなんだね。
あぁし、毎日バアちゃんと一緒に海辺を散歩してたんだ」
「じゃあ、僕といっしょだ!
僕もお祖母ちゃんと一緒に暮らしているの」
蘭子は少年の頭をくしゃっとなでた。
「そうなんすね」
「やっぱりここにいた。蘭子、もう帰る時間だってよ」
「なんだ、アナベルか……いま戻るところっすよ。
坊やも一緒にみんなのところへ戻ろう?
このあたりは潮が満ちると危険っすよ」
「うん! あっ、ちょっとだけ待って……」
少年がカニを入れたバケツを取りに戻る。
そこに、低くこもったうなり声が聞こえた。
バーリックが洞窟の外にやってきたのだ。
「ここはお前の来ていい場所じゃないよ!」
アナベルが銃を撃つのと、
蘭子が鈴を振ったのは、ほぼ同時だった。
偶然に起きた2つの武器の相乗効果。
それによって、洞窟の入り口が崩れ落ちた。




