機械の王.8 『大いなる危機』
8.大いなる危機
ノウエンタワー、情報演算室。
そこは、機械の玉座を模して作られた第二の頭脳。
機械の玉座ほどではないが、壁、天井には情報演算装置と記録媒体がはめ込まれ、音を上げている。
この部屋の主は機械の王ではなく、その信奉者であるX。
ディルほどの能力はないものの、彼もギガでも指折りの情報収集者であり破壊者、いわゆるハッカーでありクラッカーであった。
魔法の素養もありながら、彼の関心は『機械』にあった。
この街で異様に発達した機械文明。
そして、いつしか囁かれる『機械の王』の存在に心惹かれ、自力でたどり着いた唯一の人間。
そしてその機械の王がまさしく、『神』そのものであると知る数少ない人間である。
彼が信奉するのは機械の王・ディルただ一人である。
しかしディルは人間の部下を持たず、二体の精密な機械人形と、彼らのコピーとも言える戦闘人形を従えていた。
Xは、クライシスという組織の中では総帥ガラス直属の部隊であるが、その役割も含めてディルの配下であると自他ともに認識されている。
ディル自身も、部下ではないと言いながら、仕事をXに任せるようになってきている。
それが嬉しい反面、Xはディルに対する謎は解決されてはいない。
なぜ、神という存在でありながら裏組織に身を置いているのか。
なぜ人間に協力しているのか。
そして、あの少女に対して見せる執着は一体なんなのか。
現に今も、彼の命令で少女を攫った組織の殲滅作戦を展開している。
光学迷彩を施した二体の死神。
まさしく機械の、無数の戦闘人形。
ギガと、バルベロの二つの拠点を同時に襲撃した。
「リリィ、敵勢力の60%を排除確認。ローズ、残党が逃げた。」
『OK』
『確認した』
複数のモニタに映されるのは、ハッキングした監視カメラの映像。
二つの拠点の全ての映像を写し、蹂躙を余すことなく映し出す。
バルベロでは白いリリィが、ギガでは赤いローズが指揮官となり、配下の機械人形達を操る。
Xはただ、二人を補助するにとどめている。
誰一人逃れられないように、建物のロックをかけ、内部の様子が外部から分からないよう、局所的に停電を起こす。
そして通信回線を遮断。
巨大な密室を作り出したが、それでも作戦可能時間はせいぜい、二十分。
しかし疲れも恐れも知らない兵器達は着々と粛清を進める。
あと十分以内には、全てが終わるだろう。
最後は魔法で、建物を炎に包み、死体を骨に変える。
裏組織の内紛だと、結果を誘導すれば、終了。
「リリィ、ローズ、警察が嗅ぎつけた。急げ。」
『こちらは終了した。』
『こちらも、同じく。』
「ギリギリだな。じゃあ、気をつけて帰ってきてくれよ。」
Xはモニタに写っていた機械人形達の姿が消えたのを確認し、ハッキングを終了した。
翌日、ディノティクスではバルベロと、ギガの二つの二大都市で同時に起こった大規模ビル火災が報道された。
更にはビルのオーナーでもある、運送会社が各国から密輸していたニュースで持ち切りとなった。
密輸品の中には人間も含まれていたことが明らかになり、火災には裏組織が関与している、もしくは警察の特殊部隊が行った…など様々な憶測がワイドショーを賑わせた。
このニュースは隣国のミランジュにも届いており、ミランジュに展開していたこの会社の支社にも警察の調査の手が入ることとなった。
そのニュースを、ディルはシスターと共に病室で見ていた。
「……まさか、これは『あなた方』が?」
「我々が決して痕跡を残さないのは、ご存知のはず。」
シスターは、この惨劇がクライシスによって齎されたと理解した。
痕跡と呼べるものはなにもないが、共通していることは唯一つ。
全てを殲滅し、跡形もなく焼き尽くす。
『危機』を齎す、強大な暴力。
「シスター、昨日の答えを頂きたい。」
「…これを見せられれば、答えはあってないようなものです。フィリアを呼んでいただけますか?」
「シスター、今、なんて?」
「ごめんなさい、フィリア。ノウエンは貴女の力を研究する見返りに、私達に資金援助を申し出てくれたの。勿論、貴女さえ、良ければなのだけれど。」
「そんな、でも私が居なくなったら、孤児院の子供達のお世話は…?」
「それは、新しく人を雇います。それに、貴女はまだ若く、学ぶべきことも多い。この田舎よりも、ギガの方が沢山の事を学べるわ。嫌な思いをした街だから、辛いとは思うけれど。…聞けば、貴女と同じ立場の女の子が一人いると聞いているわ。」
「はい。ショウエンさんという人で、とても大人っぽい人です。」
「もう、会ったのね。その子とは、仲良くできそう?」
「まだ何回かしか会っていないけど、不思議なことに、初めて会ったようなきがしない子なんです。」
シスターは表情を緩めた。
「それなら、きっと良いお友達になりますよ。」
「シスター、私、ここにたまには帰ってきてもいいですか?」
「ええ、勿論。ここは貴女の家でもあるのですから。」
「シスター…。わかりました。私、ギガに行きます。」
「ありがとうフィリア。さあ、支度をしてきなさい。私はディルさんとまだお話があるから。」
フィリアが病室を出て、部屋には再びディルとシスターだけになる。
「…あの子の事を、お願いします。」
「勿論だ。彼女には就学・就労ビザを発行した。ギガへの留学、かつノウエンの社員ということになる。私達の元にいる限りは、安全だ。」
「ありがとうございます。このご恩、裏切らぬよう努めます。」




