機械の王.9 『機械都市へ』
9.機械都市へ
ミランジュに帰ってから一週間後、私はディルさんと一緒にディノティクスへと出発した。
ディルさんが乗ってきた車で鉄道が通っている街まで出て、そこから空港むに向かった。
生まれて初めての飛行機だったけど、ディルさんの会社の持っている飛行機で、私とディルさん以外の乗客は居なかった。
最初のうちは緊張していたのだけど、美味しいご飯と、思っていたよりも座り心地の良い座席のおかげでいつの間にか眠ってしまっていた。
着陸の直前でディルさんに起こしてもらって、ギガの郊外の空港に降り立った。
前は、殆ど寝ていたから距離は感じていなかったけど、やはり、ミランジュからは遠い所なのだと感じた。
空港に着くと、飛行機の外には黒い服の人たちが車で迎えに来ていた。
乗り込んだら、そのまま空港の外に出てしまった。
本来は空港の建物の中で手続きとかをするらしいのだけど、飛行機内で既に手続きは終わっている、だとかなんとか…。
ディノティクスはミランジュとは違って、王様がいない。
地方自治がかなり進んでいて、都市ごとに力を持っている会社があって、実質支配者になっているという。
ギガではノウエンがそのトップにいて、今みたいに煩わしい手続きを省略できるらしい。
「ようこそギガへ。フィリアさん。私はシャビィ・ハビエル。ディル様の部下です。」
車に乗り込むと、バックミラー越しに前髪が白い髪の毛の男性が挨拶をしてくれた。
「はじめまして、シャビィ、さん。」
「はじめまして、ではないのだけど。まあ、声だけだったから仕方ないかな。」
「声…?あ、もしかして、私達をミランジュに帰してくれた時の、スピーカーの?」
不思議な魔法を使ってくれた人だった。
思ったよりも若い人で、驚いた。
「そうそう。貴女の世話係も仰せつかっているので、以後、お見知りおきを。」
シャビィさんがそう言うと、運転席と後部座席の間に壁がせり出てきた。
後部座席には私とディルさんの二人だけになる。
「ノウエンタワーまでは、一時間ほどだ。途中、休憩がほしければ遠慮なく。」
ディルさんは窓の外を見つめる。
私も同じ様に、自分の側の窓を眺める。
今走っているのは高速道路。
道路の外の壁の向こうには、高いビルが何本も天に向って伸びている。
特に密集している所は都心と呼ばれていて、ノウエンタワーはそこではなく、少しだけ離れた副都心と呼ばれている場所にあるのだという。
ノウエンタワー自体が他の高層建物よりも少し古いらしいのだけど、当時の最高の技術でもって作られた、今でも一番高くて、大きな建物だという。
私の『仕事』はそこで唄を歌うこと。
私の唄は、人に影響を与えるらしく、その影響を研究するのだという。
それと引き換えに、私は学校に通えるのだとか。
『仕事』にも、見合った対価を貰えるとも。
「…」
私はディルさんの見る。
まだ窓の外を見ている。
本当に、綺麗な人。
綺麗という言葉以外見つからなくて、でも女の人みたいではない。
銀色の髪の毛が、陽の光で輝いている。
肌は磁器のよう。
何日か一緒に居たけれど、とても優しい。
今まで接してきた人とは全然違う、どこか世界が違う人のようでもある。
子供たちは、少し怖いかも、とは言っていたけど、私は全然、そうは感じなかった。
最初に感じた懐かしいような感覚は、やはり変わらない。
昔どこかで出会った?
でも、記憶にある父や母の親戚の顔でもない。
そもそも、どうして私にここまでしてくれるのか。
私の『唄』は、一体何なのだろうか。
わからないことが、沢山ある。
「ここが貴女の部屋です。後でショウエン様がいろいろ説明してくださるので、それまでゆっくりしていてください。」
「はい。ありがとうございます。」
シャビィさんに案内してもらったのは、びっくりするぐらい広いお部屋だった。
孤児院全体くらいの大きさで、これが、私の住む部屋?
入ってすぐは、居間みたいでソファとローテーブルがあって、大きいテレビもある。
居間につながってキッチンがあって、これも孤児院のキッチンよりも大きくてピカピカ。
寝室はどこだろうか…と思ってドアを開けたら、大きなベッド!
いつも、小さい子達と寝ていたものよりも大きい。
大人二人は楽に寝られそうで…。
他にも一部屋、机と椅子が置いてある勉強部屋と思われる部屋があって、至れりつくせり。
お風呂も広くて、テレビが着いてる…。
「もしかして、とんでもないところに来ちゃったのかも…」
私は、ノウエンという会社が思っているよりもずっとずっと大きな会社なんだと思い始めた。
ドアホンがなった。
私は慌てて、ドアを開ける。
「フィリア、さん。こんにちは。」
「こ、こんにちは、ショウエンさん。」
ショウエンさんだった。
シャビィさんが言っていたとおり、私にお部屋の使い方を教えに来てくれたらしい。
明かりのスイッチとか。
それがリモコンで操作できるとか。
お風呂も自動で入れてくれるとか!
「お部屋のお掃除も、ある程度はこの機械がしてくれます。本格的なハウスクリーニングであれば、お出かけ前に言ってくれれば手配します。」
「ありがとう、でも自分のことはある程度自分でできるから。…このキッチンは、使ってもいいの?」
「はい。食材は、このパネルで…」
キッチンの壁に立てかけられていた画面にショウエンさんが触れると画面が出てきた。
シスターの部屋にあった、パソコンみたい。
「これは、パソコンなの?」
「広い意味ではそうです。タブレットと呼ばれています。」
「指で操作するのは楽そうね。」
「そうですね。画面が汚れるのは、私はちょっと気になりますけど。」
「あら、そうなのね。水…はダメそうね。布で乾拭きしたら良いかしら?」
「ウェットテッシュなら大丈夫です。」
「それなら良かった。ああ、ごめんなさい。話の腰を折ってしまって。」
「大丈夫です。食材とか、生活用品ですが、ここ押したら、いろいろ注文できます。」
通販サイトが出てきた。
「あ、このサイト使ったことあるわ。シスターに頼まれて、お水とか重いものを注文したの。」
「それなら、説明はなくても大丈夫そうですね。」
「そうね。あ、でも住所とか…」
「既に入力しています。代金は、気にしないでください。こちらでお支払いしますから。」
「え、でもそれは悪いわ。というか、家賃、私どうしたらいいのかしら。」
「家賃は必要ありません。このビル全体がノウエンの所有物です。フィリアさんはノウエンにとって大事な方ですから。」
「そうなの?私、自分がそんなに大事な人間だとはどうも思えなくて。」
「それはいずれご自覚なさるかと。ディル様からの伝言です。今日はノウエンご兄弟と一緒に食事をと伝えてほしいとのことです。私も同席しますが、どうしますか?」
ノウエンのご兄弟?それって、もしかして。
「ノウエン・コーポレーションの社長さん達ってこと!?」
「はい。皆様、とても良い方々ですよ。」
シャビィ・ハビエルことX、完全にディルの部下やん…。
次はノウエン三兄弟との会食です。




