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機械の王.5 『Deus Ex Machina 2』

5.Deus Ex Machina 2


白と赤の美しい人形が夜空に浮かぶ。

白い少女は髪の毛も白く、瞳の色彩も薄い。

ゴシックドレスを思わせる白いレースが幾重にも重なったドレスを着ているのだが、脚には金属のグリーブ、腕はガントレットを嵌め、波打つような奇妙な形の剣を一対手にしている。

どちらも電子基板を思わせる幾何学模様が彫り込まれている。

赤い少年も、少女と似たゴシックスーツを身に着けているのだがやはり金属のグリーブとガントレットを装備していた。

彼らを従えているのはこちらも美しい青年。

銀色の髪に月を思わせる柔らかな色の黄金の瞳。

全身白い服を身に着け、色彩がない。

そして背には鋼の羽が生えている。

それは彼の魔法『機械』の一つ。

魔法『機械・プデレイションウィング』浮遊効果をもたらすと共に、通信電波を受信するアンテナの役割も兼ねている。

ディルは『羽』から、目的の子供達が屋敷に収容されているのを感知していた。

「あの屋敷で間違いない。まだ無事のようだ」

「どうされますか?」

白い人形が尋ねる。

「子供たちを救出したいが、外に情報が漏れると厄介だ。全ての通信を遮断する。」

白い服の男は表情を変えずに答える。


命じる。

機械達に。

彼が生み進化した、眷属に。


彼らの眼下から光が消える。

一体の電力を担っていた、変電所が止まり、電気が落ちたのだ。

機械の神たるディルには、簡単なことだ。

「さあ、行こうか」

そして、断罪の夜が始まる。



屋敷に入ると、途端に複数の足音が三人に向かってくる。

照明は落ちているが、補助電源が動き、監視カメラは動いたままのようであった。

ディルは、鋼の翼を変化させる。

それは形を変えて彼の腰にまとわりつき、ケーブルを生み出し、壁を這い入り口に設置された監視カメラに巻き付いた。

ディルの脳内に、屋敷中のカメラの映像が流れ込む。

監視カメラを介して、映像を管理しているマシンにアクセスしたのだ。

ディルを守るため、二人の人形は武器を構えた。

「「隠密モード起動」」

人形二人の姿が歪み、景色に溶け込んでいく。

魔法を使わない、光学迷彩。

二人は姿を消しまま、向かってくる足跡の方へと移動した。

十秒経つ頃には、悲鳴と、銃声が木霊する。

その間もディルは表情を変えずにカメラの映像を確認する。

時間を巻き戻し、売られてきた子供の足取りを探し、ついに。

「…二階、か。」

子供たちが集められたと思われる場所を目指すことにしたのだ。



ブロード・エディアスは、この世の春を謳歌していた。

所属していたマフィアが解体された時は、たまたまディノティクスを離れていたため難を逃れ、わずかに残った伝でバルベロへと逃げ延びた。

ギガに居たと言うだけで、バルベロの裏組織は彼を重宝した。

この国では、情報技術は何にも勝る。

企業の機密情報を盗む、あるいは、非合法な取引のための連絡手段。

バルベロの警察や軍部では、小悪党であっても、ギガの犯罪者には負けていたのだ。

そして、バルベロに潜伏していると彼を頼ってかつての同盟者や、敵対関係を持っていた組織の者まで傘下に加わった。

そうしていると、どうしても浮かんでくる一つの野望。

裏組織の頂点であったクライシスなき今のギガの掌握。

資金を集め、表にも根ざすべく、彼はギガに拠点を置く総合医療法人に手を伸ばした。

薬品の開発と、難病の治療、移植手術。

最初は資金を、そして『材料』を。

出処はうまく隠し、そうして彼は根深く入り込んだ。

『材料』が非合法なものだとバラしたのは最近だ。

移植手術は何件も成功し、世間にも注目され、讃えられている。

今更、犯罪組織との癒着があったと知られれば、会社の存続は不可能だ。

そうしてブロードは弱みを握り、ギガへの足がかりを手に入れたのだ。

しかし昨日、初めて失敗したのだ。

買った女が、逃げたのだ。

まだ見つかってはいないが、若い行く宛もない娘が一人、何事もなく生き残れるような街ではない。

破落戸やマフィアに拐かされて闇に沈み、搾取される弱い立場。

ブロードの中のギガは、かつての混沌としたマフィアが支配する街であった。

だが、その認識こそ改めなければいけないものであった。

ギガの治安は上昇し、警察組織も正常化している。

よほど治安の悪い地区でなければ、女性が警察組織に保護を受けることはたやすいのだ。

しかし、彼の最大の誤りは、ギガに戻ってきたことだった。

そして、最も触れてはいけないものに触れてしまったことが、彼の運命を決めてしまったのだ。


「…ちっ、ガキばかりか。昨日逃した女は、もったいなかったなぁ~。あんな女、この先、会えないかもしれないのによぅ。」

ブロードの頭には、昨日部下が間違って『会社』に運んでしまった少女が浮かぶ。

『解体』せずにこの屋敷に連れ込み、弄ぶつもりだったのだが、運び直す前に逃げ出したと聞き、怒りのまま部下を射殺した。

そして新たに競り落としたは六人。

少女と同じミランジュからだと聞き、また美女がいないかと全員屋敷に連れてこさせたのだが、彼の食指も向かぬほど若い。

彼らは眼の前の一つの檻に入れられ、互いに身を寄せ合って震えている。

大人しくさせるために投与された鎮静剤が切れ、恐怖がこみ上げてきたのだ。

「まあいい、これくらいのガキなら、いくらでもまた利用できる。明日、会社に送って」

また一儲け、と男は下卑た笑いを浮かべた。


「残念だが、それは無理な話だ」

「!誰だ!」

ブロードは部屋の入り口を振り返る。

そこにいた者に、一瞬言葉を失う。

銀色の髪に、金の瞳。

真っ白な服。

まるで金属のような色彩に、ブロードは人形のようだと、思ってしまう。

「貴様、どうやってここに!?警備員は何をしている!?」

『メタルデフォメーション』

白い男は言葉を紡ぐ。

その途端、檻が変形し、卵のように子供達を包んだ。

「なっ」

「人質に取られると厄介なのでね。それにあまり子供に残酷なものは見せたくない。」

「ふざけたことを、死ね!」

ブロードは護身用に持っていた銃で躊躇なく男を撃った。

マフィアにいた時の教訓。

躊躇なく屠る。

先手を打つことが、生き残るための最低限の行動。

しかし、それは男に届くことはなかった。

「生憎。それは私には効かない。」

「なっ、そんな弾、が」

銃弾はなにかに阻まれるように空中に静止している。

『メタルデフォメーション-穿け槍-』

白い男の言葉に呼応し弾丸は針のように細く変形した。

そして槍となった弾丸はブロードの脚を貫いた。

「え?っあ、あああああ!!!」

崩れ落ち、傷を押さえる。

「誰かっ、誰か、うわあああああ!」

ブロードの悲鳴にも、男は眉一つ動かさない。

そして、断末魔が虚しく屋敷に響いた。


非常灯が灯る静かな廊下を、硝煙と血の匂いが満たしている。

佇むのは、二人の子供。

一人は少女。

その白い服で血の赤に染め、手に持つ一対のいびつな形の剣からは血が滴る。

もうひとりは少年。

赤い服をより濃く染め上げて、手に持ったメイスは鈍く、怪しい光を宿している。

人形のように、表情のない顔で床を一瞥する。

床には死体、死体、死体。

ある者は銃を手に持ち、恐怖と絶望に染まった表情のまま、絶命している。

「制圧完了しました。」

白い少女が呟くと、少年も続く。

「撤退後、獄炎絶命陣(ヘルファイア)を展開。証拠を隠滅します。」

『ご苦労。こちらも終わった。フィリアの友人たちを保護した。彼らも連れて行く。』

「了解しました。」

そうして人形達は、主人の待つ部屋へと向かった。



翌朝、ギガ郊外で大規模停電が起こり、電源回復時の漏電により一つの屋敷で火災が発生した。

出入口は電子ロックが掛けられたまま解除できず、住民は外に逃げ出すこともできず炎に飲まれたという。

消火に三日を有するほどの猛火は、屋敷の人間を灰と化した。

同時に、報道機関に匿名でもたらされた情報は、ギガに大きな衝撃を与えた。

大手医療法人が行っていた臨床実験および移植手術に、犯罪組織が関与していたという疑惑。

しかも、火事のあった屋敷はその大手医療法人の上層部の私物だったことから、火災は事件の可能性も視野に入れて調査が行われていた。



ノウエンタワー最上部、総帥の部屋では巨大なスクリーンに件の火事のニュースが映されている。

それを見つめるのは、ノウエンコーポレーションの最高幹部である三兄弟。

長兄である総帥のガラス。

ガラスの秘書で、ノウエンコーポレーションの服飾・美容部門の長でもあるフィーナ。

音楽、エンターテインメント部門の統括であるザクト。

三人は、ノウエンの守護神でもあるディルの所業の驚きを隠せなかった。

彼は決して表舞台に立つことはなく、その強大な力をガラスやノウエンのサポートにのみ為に使っていたのだ。

それが、今回は直接手を下した。

関係者を全て、消すという方法で。


「随分と派手なことをしたんだね。足がついたりしない?」

「心配ない。ディルは常に完璧だ。」

「いやいやいや。いくらなんでもこれは事故じゃないってアホでも分かるよ。でも、ディルはなんでこんなことを?あの女の子はウチにいる限り、安全だろうし。…報復?」

「さあ、彼の考えはわからないからな。」

「ところで、あの女の子、フィリアだっけ?どうするの?それに昨日連れてきた子供たちも。流石に何人も匿うのは、警察に勘付かれるよ兄さん。早めに施設にでも、引き取ってもらわないと。」

ザクトの懸念は最もである。

フィリア達を匿っていることが明らかになれば、その経緯が問われる。

下手をすれば、ノウエンの裏の顔がバレかねない。

「そのことなんだが、子供たちはミランジュに送り届けるらしい。」

「え?マジで?どうやって?パスポートなんて無いだろうに。それに、一回裏組織に誘拐されたんなら、また攫われるかもしれないじゃん。だって、まだ生き延びてんだよね?攫った奴らはさ。」

「心配には及ばない。ディルが全て対処するそうだ。俺たちは、彼の行動をただ見ていればいい。」

デイルはヴィルと同じく『物質操作』能力を持ちます。

ヴィルが有機物(炭素化合物)なのに対してディルは無機物です。

金属、鉱物を生成、操作できます。

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