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機械の王.4 『天上の闇 地底の窖へ』

4.天上の闇、地底の窖へ


ノウエンタワー、最上部。

ギガでも一二を争う高さを誇る景色を背後に、ノウエンコーポレーションの社長であり、すべての権力を有する男がモニタを見つめる。

内容はディルが調べ上げた裏オークションについて。

秘密裏に運ばれた禁忌品を求めて名を隠し参加するオークション。

かつてはギガのいたる所で行われていたが、三年前のマフィア掃討作戦以来、鳴りを潜めていた。

そして行われたとしても、希少な動物の毛皮や、盗品等の比較的規模の小さなものばかりであった。

「人身売買か。ショウエンの時といい、無くなることはないのだな。」

「かつては強制労働力、性的搾取、今では内臓売買。時代が変わるにつれて内容は変わりますが。」

ガラスに報告しているのは前髪が白く、それ以外は黒髪の青年だ。

フレームの無い眼鏡を掛け、手にしたタブレットを操作し、ガラスの目前のモニタに情報を提示する。

「ご丁寧に、電話回線もネットワークも遮断された場所で行っているようです。決済も、まあ足がつきにくいからでしょうが、全てキャッシュ。参加者は不明です。『商品』を載せていると思しきトラック以外の出入りはありません。おそらく建物に通じる地下通路があると考えられます。」

「新しい施設か?」

「いいえ、古い施設のようですが」

そこで男は、Xはガラスの横に立つ同僚のYに視線を送る。

「Y、ここに覚えはないですか?」

「…昔、何度か。」

「ここに来る前か?」

「はい、ガラス様。まだ私が小さな組織の頭であった時です。その時も、Xの報告のように裏オークションに使われていましたが、こちらに来てからは一度も。」

「そうか。それで、これからどう動く?」

「少女を買った客を調べます。宝石とか盗品ならまだしも、流石に人身売買をする組織を放っておくのはリスクになります。」

ガラスはため息を吐いた。

「確かに、人身売買に手を出しているんだ。人材や資金は豊富なのだろう。またどこかの組織が力を持っては厄介だ。我々の存在も、傘下は兎も角、他のところにはバレたくはない。」

「潰しますか?」

Yの進言にガラスは同意する。

「そうだな。それに、今回の目的は調査だけではないのだろう?」

ガラスが確認すると、Xの代わりにディルが答えた。

「オークションに行くのは、あくまで彼女を買った組織と攫った組織を調べる為だ。」

「…一つ聞くが、『買った』組織を見つけてどうするつもりだ?まさか、放置というわけではあるまい。」

「…」

「ディル。既に調べたのだろう?…彼女の故郷がどうなったか。」

ガラスの言葉に驚いたのはXだ。

Xが知っているのは、裏オークションの会場を突き止めたということだけ。

ディルから送られてきた情報も、それに関するものばかりだ。

「昨日、彼女が育ったという修道院が襲われた。子供六人は行方不明。そして、世話役のシスターは、重症だ。」

「!?では、まさか。」

「おそらく、誘拐が成功して気が大きくなったのだろう。それにしても、大胆なことをする。」

ディルは淡々と答える。

「ミランジュは未だに貴族と平民の差が激しい。まして、話からすると少女、フィリアといったか、田舎のこととなれば、あまり熱心に調べたりはないようだな。」

ガラスも同じく、淡々と答える。

「で、新たにさらわれた子供たちもギガに運ばれると?」

「可能性は高い。それに、急がないと取り返しがつかないことになる。」

「取り返し?」

「…ストラスメディカル。ここ数年、続けて新薬をリリースしている。しかも驚くべき速さだ。傘下の病院では、一年前から臓器移植を含めた難病や再生治療の成功例がかなり多い。対外的には、ドナー登録が周知されたと言っているがおそらく、違法な入手だろう。そして、一ヶ月前には、一度に三人の心臓移植が行われた。関連の病院でも腎臓、角膜、肝臓…十件だ。この半年では更にペースがアップしている。」

ディルの言葉にXの顔が青ざめる。

「まさか、それって…うっぷ。」

行われたであろう残酷な事実に、Xはこみ上げる吐き気を必死に抑える。

「おそらく近日中にまた『入荷』されるのだろう。確認するためにも、裏オークションへいく必要があると考えている。」

「状況の確認か。分かった。潜入は…Y、できるか?」

「仰せの儘に。旧知がいるかも知れませんか、適当に足来ます。付き添いは、Xで。」

「へ?俺、ですか?」

「Wはフィーナ様の護衛だ。ザクト様の直属部隊は、目立ちすぎる。」

「…確かに、アイツらは派手ですもんね。」

「決まりだ。では、早速今夜から何日か行くぞ。」




裏オークションは、Yの記憶と違わない、古めかしい形式のものであった。

品物が部屋の奥の壇上に掲げられ、仮面を付けた者が値段を釣り上げていく。

身元がわからぬよう、参加者は皆、黒いマントを着ている。

大半が男性だが、女性も混じっている。

YとXはオークションが始まる直前に、秘密の通路-驚くことに地下鉄の一角の秘密の抜け道-からたどり着いた。

こうした秘密の道は、クライシスの先代が存命だったマフィアの黄金時代によく使われていたらしい。

通り抜けには会員のみが持つ鍵が必要で、Yはそれを持っていたのだ。


Yは根からのクライシスの構成員ではないい。

クライシスとは別の、敵対こそしていないが独立したマフィアの首領であった。

しかし、クライシスと対立していた組織からの同盟の誘いを断り、見せしめに攻撃を受けた。

部下や家族が殺されていく中、Yはクライシスの先代総帥-ゼブル・ノウエンに助けを求めたのだ。

結果、Yとその残党は助けられ、攻撃を仕掛けた組織は逆に壊滅したのだ。

-ちょうど潰そうとしていたんだ。私の縄張りを狙っていたからな。-

Yはその日から、クライシスの直属戦闘部隊として身を捧げたのだ。

Yの部下達は、戦闘部隊を外れてもクライシスの構成員として働いている。

だがYだけは、未だに戦場に身を置いていた。

クライシスに害をなすものを殲滅するという、ゼブルとの約束の為だ。

「これはこれは、随分と盛況で」

Xは隣のYにしか聞こえないように呟いた。

「今も昔も、変わらないということだ。」

「そう言えば、あなたは昔、何を買ったんですか?」

「他愛もないものだ。希少な動物の毛皮や、牙で作った彫像、アンティークなジュエリーとかな。」

「意外ですね。あなたは、銃以外興味なさそうですし。」

「そういったものを持っているというアドバンテージ、箔を付けるためだな。女たちに強請られた物もある。…それも全て、なくなったがな。」

「…へぇ。」

強面というか、岩のように厳しい顔だが元はマフィアの首領だ。

情婦の一人や二人は、居てもおかしくないか、とXは失礼極まりないことを考えた。

「…お前は本当に恐れを知らないやつだな。そのくせ、裏世界には慣れない。」

「別に、マフィアになりたかったわけじゃないですし。…さて始まりそうですね。」

会場が暗くなり、ざわめきが小さくなる。

部屋の奥の、ステージにのみ照明が光る。

オークションの始まりだ。


南の帝国から運ばれた肉食獣の毛皮。

美しい羽根の生きた鳥。

著名な画家の未発表絵画。

どれも、表では売られることのない非合法なものばかり。

一日目と二日目は不発に終わる。


しかし、それは三日目についに現れた。

「本日の目玉は…こちらです!」

鳥かごを模した巨大なゲージに入れられて出てきたのは年端もいかない少女。

白い肌はこの国ではあまり見ない。

髪の毛の色も薄い。

ぼんやりと空を見ている顔立ちも、ディノティクス人の顔立ちではない。

「厳しい寒さで育った無垢なる少女!将来はさぞ、美しい乙女になるでしょう!労働力にも、愛玩にも、適した極上の品!今日はなんと六人です!さあさあ早もの勝ち!次の入荷は未定です!」

呈された金額もこれまでの比ではない。

しかし、早速一人手を挙げる。

負けじと、もうひとり。

「X」

「わかってますよ。」

Xは、掲げられた手に、正確には指に目線を送る。

眼鏡の一部がワイプとなり、指を拡大する。

手袋をつけていない。

ラッキーだ。

Xは掲げられた人間全ての指紋を採取しようとしていた。

暗い室内であっても、鮮明に撮影された。

一人、また一人とレースから脱落し、ついに最後の一人になった。

スタートの金額から、実に二倍以上の値段で少女は落札された。

「落札ー!お客様、ありがとうございます!」

落札した男と少女は、別室に行き、そのまま戻っては来なかった。

続いて五人、同じ様に表情のない少年少女達が並ぶ。

Xは同じ様に、落札した人間の指紋の採取に全力を注いだ。



YとXがノウエンタワーに戻る途中、通信が入る。

機械の王からだ。

『X、君のおかげで裏付けできた。今日、子供たちを落札した三人は全員ストラスメディカルか、その関連会社に籍をおいている。』

「それはまた、ドンピシャばかりで。しかしどうやって。指紋は基本的に警察がもっているのでは?犯罪歴でも?」

『銀行の生体認証データベースからだ。』

「…おみごと、です」

鉄の防御を誇る金融機関であっても、機械の王にかかれば暖簾のようなものだ。

いや暖簾ですら手で払いのける必要があるから自動ドアか、とXは思い至る。

「で、俺たちはどうすれば?少女達の救出ですか?」

『ああ。しかし、それは私が行う。…一旦別々に帰ったようだが、その後郊外の住宅に集められたようだからな。』

「機械の御大、自らですか!?」

『ついてこようとは思うな』

Xが、俺も行きます!と叫ぼうとするよりも早く、ディルは言い放った。

「…分かりました。俺たちは、タワーで待ちます。」

『ああ。』

通信が切れて、Xはシートに倒れ込んだ。

「なんと?」

「ディル様が出陣されるそうだ。嗚呼畜生!俺も行きたかった!」

心底悔しそうなXにYはため息を吐いた。

しかしXはこの後、同行しなかったことを心底後悔するのであった。

Xは三十歳ちょっと過ぎです。

ショウエンが入る数年前にクライシスに加入しています。

ちなみに部下ズの年齢を若い順に並べると

E<W<B<A<X<C<D<<Y

です。

20代はEとWのみです。Yが40代で他はみんな30代です。


次はディル様出陣です。

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