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『機械の王』 前日譚.機械の魔術師

※グロテスク・暴力描写有。

前日譚.機械の魔術師


「こちらX。目的を補足。敵は五十。半分は『作業中』と思われます。」

モニタ越しの画面に映る人影を数え、我が王に報告する。

昨日、我々の支配下の村を襲っていた組織の本拠地を突き止め、その殲滅を命じられた。

こちらの人間は、ザクト様の部隊の二人を併せて五人。

戦闘人形は五体。

敵の数は五十人だが、戦闘能力ならこちらが圧倒するだろう。

今回の目的は制圧、見せしめ、そしてあるモノを探すこと。

特に最後の任務は、我が王にとって第一だ。

『了解した。作戦は君に一任する。先程説明したとおり、宝珠の回収と制圧を最優先とせよ。万が一、村の生存者がいた場合は、都度、報告せよ。』

「了解です。しかし、生存者は期待できないでしょう。ですが、報告は欠かさず。」

通信が切れる。

俺は十のモニターを改めて確認する。

ここは襲撃予定地から離れた森の中。

トラックを改造して、さながらテレビの中継車両のように通信機器を備えた動く情報拠点であり、司令拠点だ。

敵陣の入り口付近に配置した機械人形の目から送られてくる映像には、変わらず見張りの姿が映っている。

しかし、裏口と思われるもう一つの出入り口からは…一時間ごとに、大きな布袋を捨てる人影が映されるのみ。

その中身を知ってしまってから、目を背けたくなる。

世界最大とも言っていい非合法武装組織クライシスに身を置く俺ですら、吐き気を催す所業が中で行われている。

『X、突入の合図を。』

ヘッドホンからは壮年の低い声。

この部隊の隊長であるYの声だ。

今彼は、裏口に待機している。

彼もあの悍ましい映像を見ているのだが、落ち着いてるのは流石というべきか。

「三十秒後に電磁パルスを発生させます。入り口のロックが外れますから、突入して下さい。」

俺は電磁パルス発生装置のスイッチをいれた。

カウントダウンのアラームは現場にいるY、Wそしてザクト様の部隊からの応援であるDとCにも聞こえている。

裏口からはYとWが。

正面からはCとDが突入する。

彼らとペアになるように一体ずつ機械人形が付きそう。

これから彼らが突入する敵陣の見取り図と監視カメラの映像を解析にかける。

敵が最も出入りする部屋を特定し、そこを最終目的地に設定する。

機械人形達の魔導感知機能を最大に上げる。

幸い、施設の中にあるもののうち、高い魔導値を示すのは我が王、ディル様が求めるペンダントだけのようだ。

「(機械の王が求めるもの、さぞや、素晴らしい逸品なのでしょう)」

機械都市ギガに語り継がれる噂、伝説、フォークロア。

他の場所に追随を許さない機械技術が発展したのは、『機械の王』なるものが都市を守護しているからだという伝説。

お伽噺の存在。

それを真面目に調べたものはいない。

だが俺は違った。

たまたま魔力感知能力が高かったお陰か、俺は機械都市の中では珍しく魔法や魔術に興味があった。

ある時ふと、都市の魔導波形を調べようとあらゆる場所をモニタリングした。

そして、機械都市で『何か』がおこる前後、必ずと言っていいほど、機械都市の魔導波形が乱れることを知った。

『それ』は確かにいる。

俺は確信した。

犯罪組織が関与したかもしれない、だが関与が完全には明らかにできない事件。

それらを徹底的に調べた。

ある時…小さな犯罪組織のビルが炎上する直前、監視カメラをハッキングしている者を見つけた。

幾つもの回線を経由し、逃げられたが、確かにいた。

同じような事件のたびに、俺は追跡ブログラムやウイルスをばらまいた。

結果は…驚くべきもの。

ギガが誇る大企業の、サーバーが、元であった。

ノウエンコーポレーション。

世界的大企業。

そして突き止めた翌日、俺のメールアカウントに、一通のメールが届いた。

場所だけが指定されたそれ。

末尾のCに、俺は、機械都市最大の犯罪組織を連想した。

クライシス

逆らうものには一滴の血をも残さぬほど、全てを焼き尽くす犯罪組織。

逃げられないと思った。

しかしその場所に赴いた時、俺はそれらに目を奪われた。

白と紅の自動人形。

人間を超越した美しいそれ。

俺が見とれていると、彼らは俺を誘いに来たと言った。

興味本位に機械の王を探すものはいたが、実際に到達したものは俺が初めてだということ。

一生抜け出せぬ暗い場所だが、莫大な富とあらゆる欲望を叶えるという条件で、組織への加入を促したのだ。

もとより断れば命は無い。

俺は喜んで彼らについていった…。

「(今では参謀、という名のメンテナンス係。でもそれでも、ここに来る前よりはずっと楽しいからよしとするか…ああ、でも今日はメシを食えそうにないな。)」

室内モニタを確認するが、その映像に吐き気が止まらない。

先程しこたま吐いたのだけど、またえづいてしまう。

裏の世界にどっぷりのYやWなら慣れているのだろうが、一般人であった自分には、かなりきつい。

「カウントダウン開始。5、4、3、2,1…作戦スタート」

表の入り口と裏口の電気が消え、非常電灯が灯る。

そのスキにCとWは表の見張りを殺し、機械人形と共に中に入っていった。

後に続くYとDも同じだ。

「施設内は狭い。気を付けてくれ」

『了解』

モニタにはYやW達が映り込む。

イヤホンを外し、音声をスピーカーにする。

銃撃戦をイヤホンで聞くのは耳に悪い。

俺の予想通り、直ぐ様それは始まった。

室内銃撃戦。

相手は、まさか襲われるとは思っていなかったようで、気づいたときにはジエンド。

すばやく反応しても、被弾することを恐れない機械人形に屠られる。

最初の一撃をよけても、正確無比な縦断が彼らを逃さない。

開始から僅か十分で二十人近くを殺す。

「やっぱり、俺とは人種が違うね~。早くあの部屋に行ってくれよ。」

もはや目が拒否するその部屋。

モニタは未だに惨劇を移し続ける。

一番最初にたどり着くのは…どちらのチームだろうか。



「なんかあの村よりも弱っちいやつらばっかだな」

死体を確認しCは吐き捨てる。

「拠点防衛だから、強襲部隊とはまたちがうのだろうな。C、目的地まであとどれくらいだ?」

「あの角を曲がったところのドアらしいぜ。しかし、お前大丈夫か?」

「何がだ?」

「Xの話だと、中々エグいみたいだぜ。俺は大丈夫だが、お前はちょっと外にいといたほうが良いんじゃないか?Xみたいにゲロ吐かれたら俺までもらいゲロするからよ。」

「…全く、なんのことかと思えば。しかし、そこまで言うのなら私は部屋の外の見張りをする。中のことは、任せた。」

「了解」

Cは深呼吸し、廊下を進む。

曲がり角を確認し、目的地のドアを確認すると。

「なんだおっさん、もう来てたのか。」

「小僧どもが遅すぎるんだ。あと一分は早くこないとな。」

ドアの前には二人。

一人は筋肉質な男性で、もう一人は細身の、恐らく女性。

「昨日の今日でちょっと疲れが。突入はお二人で?」

「いや、儂だけだ。」

「それは好都合。俺たちも突入は俺だけって話なんすよ。まあ、騒ぎを聞きつけて応援が来ても不味いんで。」

銃の残弾を確認すると、YとCは部屋の中に押し入った。

僅か三十秒ほどの銃声と倒れる音。

『制圧完了…しっかし、これはヤベェわ。』

Cが示すとおり、その部屋の中は、凄惨そのものだった。


「人身売買、の一種とはいえ実際見るとキツイもんがあるっすね。」

「そうだな。」

Yは部屋を見渡した。

床には『作業中』だった敵が物言わぬ死体となって倒れている。

そして、部屋の中央にはステンレスの寝台があり、その上にも死体が横たわっていた。

腹を、上下に割かれて。

「心臓、腎臓、肝臓…他にも色々取られてそうっすね。」

Cは死体を冷静に観察する。

顔に掛けられた布を取ると、流石に顔をしかめた。

「目、角膜もか…全く人間の所業じゃねぇな。臓器とられて、その後はその辺にポイ捨てか。」

部屋の四方の壁には棚があり、保存液に浸された臓器が並べられていた。

「アカデミーが細胞の保存方法を開発してから半年…その間にどれだけの人間が、臓器を取られたんだろうなぁ…」

ギガが誇る学術教育組織が、明るい未来の為と開発した医療技術が、新たな闇を齎す。

光りの足元には、必ず影ができる。

まさにそれを表す、この地獄。

『その場所に、目的のものがあるはずなんだが』

イヤホンからは今回の作戦の司令であるXの指示が入る。

少しかすれているのは、彼がこの部屋の様子を見てしまった時に吐いた為だ。

「了解。」

「了解。」

YとCは部屋の外にいた機械人形を呼び寄せた。

人間と寸分たがわぬ滑らかな動き。

しかし、部屋の惨状を見ても顔色一つ変えず、探しものをする。

「機械の御大の捜し物か、さぞや、すごいブツなんだろうな。」

「……Y様、生存者です。」

機械人形の一人が報告する。

部屋の隅、死体が入っているであろう袋が重ねられたそこ。

その袋の一つを、人形はあらためていた。


「ディル様、生存者です。」

『そうか。人形にアクセスし状況を見る。』

「え、はい、了解です。」

Xは機械人形の操作と通信権限を切り替えた。

機械の王、ディルへと。

モニタを見ると、機械人形と生存者が、何かを話している。

機械人形の言葉は、操作権限をもったディルの言葉そのものだろう。

「(…ログ取得。)」

Xは人形の音声ログの記録を開始する。

通信権限を譲渡した最初の数秒は取れなかったが、後から内容を確認できるだろう。

同じ部屋にはYとCもいる。

聞かれて不味い話ではないはずだ。


生存者は女性だった。

恐らく歳若く、しかしその顔は土色で、目もうつろだ。

腹は割かれていないが、腕には注射の痕のような、鬱血痕が幾つも浮かんでいる。

血液を抜かれたのだろう。

恐らくもう、助からない。

「ショウという少女を知っているか?」

「…あ、あ、私の…娘…よ。ショウ、は…?」

「彼女は私達が保護している。安心してくれ。」

「…あなた、はけい、さつ…?それとも、天使…?」

美しい人形を見て、天使と思ったのだろう

朦朧としているのか、口走る言葉には現実味がない。

「どちらでもない。しかし、あなたの娘の力をよく分かっている者だ。」

くぼんだ目が見開く。

そして

「…よかった、あの子の仲間、なのね。…ああ、なんだか楽になった、きぶん。」

苦悶の表情が緩む。

しかし目がいよいよ遠くを見はじめる。

「あの子に伝えて下さい、てんしさま、あいし、て…」

女性はそこで、事切れた。


「宝珠を発見。回収します。」

臓器が並ぶ一角に被害者達が身につけていたであろう指輪やイヤリングが纏めて置かれていた。

その中でひときわ、目を引くペンダント。

濃い緑の宝珠に金具が取り付けられたそれ。

「それが機械の御大の探してたモンか。…たしかに綺麗だな。しかし、これくらいだったらエメラルドだったとしてもウチにごろごろありそうなもんだが。」

機械人形はCの言葉を無視し、再びディルの言葉を放つ。

「アドラス」

『ここに…貴方にまみえることができるとは。光栄です。』

機械人形を通じて、ディルにしか聞こえない声。

女性の声。

「君の生まれ変わりは我もとに。」

『…感謝、申し上げます。』

「彼女の母親は、先程事切れた。他の肉親、縁者は?」

『…みな、死にました。父親は連れ去られる際に抵抗し、殺されました。彼女の兄弟はもとよりいませんが、血縁縁者はおおよそ、あの村にいました。あの村から生きて連れてこられたものは、もう…』

人間を超越する神であっても、この場所で行われていたことは口に出すのも憚られるようだった。

いや、何度も転生し、人間の人生を何度も見てきたからこその感情なのかもしれない。

老衰や事故といったものではない、一方的な命の搾取。

「わかった。すまない。あとでまた会おう。」

『はい』

機械人形はペンダントを布に包み、懐に大切にしまい込んだ。


『制圧完了。んで、ここはどうするんだ?』

「ご苦労さまです。機械人形を四体残して撤退でいいそうです。ディル様が『後始末』をするそうです。」

『まじか!まあ楽だから良いけどな。そんなに重要な拠点なのか、ここ。』

「何故かは教えてくださらないですが、そういうことかもしれません。」

『ふーん。了解。じゃあ、そっちに戻る。』

「お待ちしてますよ……ふう」

現場との通信を切り、Xはため息をはく。

喉は胃液でピリピリしているが、吐き気は漸く収まった。

機械人形は自分の護身用に残した一体のみ。

もう二体は、現場の二体ともうすぐ合流する。

現場の二体は…打ち捨てられた遺体を、森の奥へと運んでは戻ってきている。

埋葬しているのだろう。

「…そのショウって女の子の為、ですかね。」

『敏いな』

「うお!?」

独り言に機械人形は反応する。

機械人形の言葉ではないが。

「いるならそう言ってくださいよ。…すべての機械の神様。」

『驚かせたなら、謝ろう。X、君の言う通りだ。あの少女の縁者を、打ち捨てられたままでいるのは私も心が痛い。せめて、命の苗床となるように、埋葬する。』

「そこまでして、あの子のこと気になさっているのですね。どういう子なんですか?ショウという少女は」

ザクト様が連れて帰ってきた、先の人狩りの唯一の生存者。

魔法で自らを守り、ザクト様に救出されて来たらしい。

そういった事はめったにない。

あったとしても記憶を操作して福祉施設につれていくのだが、今回はディル様の要望というか、決定事項のような形で組織に置くことになったのだ。

高い魔力値は確認できたが、それだけでこの裏世界に、あの年齢で取り込むのは理解ができない。

『彼女は、そうだな私の親戚みたいなものだ。』

「え?しんせき??」

『いずれ、分かることだ。今はまだ、その時ではない。』

それだけ言って、機械人形は黙った。

ディル様との通信が終わったのだ。

「…肝心なとこはまだ秘密か~畜生~!」

機械の神様の親戚、ということは、ショウという少女も神様なのだろうか。

俺は先程の音声ログを再生する。

聞こえるのはディル様の声だけだ。

しかしペンダントの魔力値が微弱だが、上下していることからディル様の声に反応しているのは分かる。

「…しばらくはこれの解析で暇が潰せそうだ。あとは、ショウ、か…。」

就学前の幼い少女。

今はザクト様やフィーナ様が世話をしているため、直接関わるのは難しい。

だが、組織にいるということは、接触する機会はあるだろう。

「(機械の御大。あなたのことは全て、私が解明してみせる。)」



煙シリーズの主人公ショウエンの師匠こと、ディルの物語『機械の王』シリーズ前日譚です。

時系列はショウエンがクライシスに拾われた直後、そしてXは完全な裏方戦闘員です。

世が世なら、古神ディルを崇める神官のような立場です。

情報技術はギガでも指折りで、龍華以上です。

次回から『機械の王』、始まります。

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