『煙』18.硝煙と鮮血の向こう
18.硝煙と鮮血の向こう
「朝食は何時も通りの時間に置いておきます。食べたくなければ、置いておいて下さい。新しいのを運んできますから。」
私はシャワールームに向かった。汗と血の臭いが染みこんだアンダースーツを脱ぎ脱衣場に置いた。
バスルームに入ると、バスタブからは湯気が立っている。既に準備がされていたようだ。
『服、回収しておきますね。バスタブの中で寝ないようにだけ気をつけて下さい。』
「ありがとう、D。」
『いいえ。ではごゆっくり。』
脱衣場のドアが閉まる音を聞いて私はシャワーのコックを捻った。
熱い湯がベトついた身体を流し、清めていく。
流れていく水が心なし濁っているようにも感じる。ヘルメットを被っていたのに、なぜ汚れるのだろうと思ったが、そうか、バルトを刺したときに着いたのかもしれない。
バルト。
去年は一緒に机を並べて勉強していたな。いや、やつは勉強などしていなかっただろうけど。
明日学校で、騒ぎになるだろうだろうか。生徒が一人、惨たらしく殺された。
人気者で、金持ちの人間が。
彼に好意を持っていたオンナノコ達は悲しむだろう。
オンナノコ……私は背筋に冷たいものが走った。
アデーレ。
彼女もバルトのことが好きだった筈。
私が彼に酷い目に遭わされたと知ったとしても、その思いは完全に消えないだろう。
まして、仮に憎んだとしても殺すまでは考えないだろう。
だったら、私のした行為にはどんな意味があったのだろうか。
未遂とはいえ、陵辱されそうになった。殴られた、多少怪我もした。
だが殺すまではいかない、のかもしれない。
私個人についてはその程度。
ではザクト様にとってはどうだろうか?
この街全体が、実質ザクト様達の組織の縄張りだ。
断りもなく、勝手にそう言った商売をしようものなら、裏の秩序金の動きが乱れいらない闘争が起こる可能性がある。
ザクト様の組織も下部は壊滅。敵対していた大型組織も、殆どが解体され、今は静かに水面下に潜んでいる。
そんな中で我らが居なくなったと勘違いした新参者が勝手に動いてしまえば、警察が動き、入らぬとばっちりを受ける。
それは避けたい。
だから、今回の襲撃は見せしめの意味も籠もっているのだろう。
人身売買の件も大きく報道されるから、そう言った裏稼業に手を染めている者は早々に手を引くだろう。
見せしめ。惨たらしい死。壊滅。跡形も残らない。
それが今回の目的。
それで十分だ。それで、良いのだ。
身体を一通り洗った私はバスタブに身を沈めた。
少し熱めのお湯が緊張していた身体を解きほぐしていく。
この数日で色々な事が起こった。
同時に、私はもう普通の生活というものを送ることは難しいと再認識をした。
この世界で多くの人が営んでいる形態、習慣の生活。
勉強し、働き、恋をして、結婚し、子供を産んで、育てて、穏やかな余生を過ごす。
しかし私の居るここは、血と硝煙が混ざる世界だ。
でもせめて、私が誰かを好きになっても、構わないだろう。
私は人間なのだから。
次の日、私は昼近くになるまで眠り続けていた。
起きた時には一枚の紙と、飲み物だけが私の机の上に置いてあった。
起きたらDを呼ぶこと。
あとは、夕方にザクト様が私をつれて外出すると言うこと。
その二つが書かれていた。
私は服を着替えてDを呼んだ。
Dが来るまで水を飲みつつ、タダぼんやりとこれからの事を考えた。
学校はどうなるだろうか。
少なくとも、もうあの学校へは通えない気がした。
私は一人の生徒を殺した。それは紛れもない事実だからだ。
それに対する罪悪感はない。だがそれが露呈して、アデーレが私に憎悪の感情を向けるのは、私には辛い。
何れ分かることなのかもしれないけれども。
「ショウエン様、おはようございます。気分はいかがですか?」
「おはよう、D。平気だ。…サンドイッチか。ありがとう。」
彼が持ってきたのはサンドイッチと、コーンスープ。そして冷えたオレンジジュースだった。
サンドイッチの具はタマゴ、ハム、レタス、トマト。
タマゴは半熟でケチャップ多め。私の好きな組み合わせだ。
「昨晩はお疲れ様でした。今朝のニュースでは、人身売買の組織の摘発と内部抗争による自滅と報道されました。商品になる予定だった女性は全員救出されましたよ。」
「……そう。でも自滅ってことになっているのなら、見せしめには為らないんじゃないの?」
私は一口かじる。
トマトの酸味が、私の味覚を刺激し、食欲を呼び起こした。
「こちらの業界の人間なら、自ずと分かるでしょう。自滅なんて早々起こるモノではありません。それに内部抗争というのは内部権力のバランスが崩れた時に起こるモノです。今回報道されたのは『人身売買を止めるための自浄作用』『若い構成員達の中で恋人を売られた者達による反乱』となっています。自分が所属している組織を失ってまで危険を冒し、なおかつ成功するのは考えられない。しかもその後反乱者達は自爆。誰一人証人はいない。別の誰かが攻撃したという考えに行き着くのが自然です。」
「なら当然警察もその線で捜査するのでは?」
「どうでしょう。彼らは人身売買のルートや取引先を負うので手一杯でしょう。それだけでも市民からの印象は良くなるでしょう。余計な仕事はしないのがこの街の警察です。……仮にあの事件を引き起こしたのが誰なのかと追及があったとしても我々まではたどり着けません。」
「証拠隠滅と情報操作は得意分野、か。」
「そうです。警戒はしていますが、貴女が気に留める必要はありません。」
私は次にハムサンドを口に運んだ。ほのかな塩味が妙に美味しく感じる。塩分不足に陥っていたのかもしれない。
「学校、変えようと思う。」
「その方が良いでしょう。しかし貴女の立場は誘拐未遂の被害者、教員には既にそう伝えています。哀れみの情を向けられることはあっても、貴女を犯罪組織の人間だと思う人はいませんよ。…ですが、貴女の友人は疑いを持つかもしれません。」
Dが私を見る。さあ、どうすると問うように。
一番確実なのは、恐らく彼女を消すことなのだろう。
彼女はDとA、そしてザクト様の顔を知ってしまった。
そういう意味でも、私たちの正体が露見してしまう危険因子になるだろう。
でも、私は…
「私が、あそこを去る。彼女は、そのままにしておく。」
「分かりました。彼女と特に仲の良い人物は貴女ですから、彼女に何かあれば貴女が注目される恐れがある。貴女は誘拐を恐れて他の街に引っ越したということにしましょう。」
「…ああ。そう、だね。」
「とはいえ、今回の件の最終決定を行うのはザクト様ですから、彼の意向を待ちましょう。」
サンドイッチの御代わりを聞かれたが、私は断った。
午後三時、私はザクト様に呼ばれて彼の部屋に言った。
いつもの黒いシャツにワインレッドのベスト。
そして、一輪の赤い薔薇の花。
「やあ、ショウエン。昨日はお疲れさま。そこに服があるから着替えておいで。」
ザクト様が示した机の上には赤い服があった。
前に架ってもらったものとは別の。
「これは…?」
「君のために、僕からの褒美さ。また夜はレストランに行くからね。」
「わかりました。…あそこをお借りします。」
私が脱衣場に目線をやると、承諾して下さった。
一式を持って脱衣場に行く。
早速服を広げてみると、それはツートーンのワンピースだった。
黒い襟シャツにチューブトップのワンピースが重なったデザイン。
私には大人っぽい。
あと、その服の間に。
「…下着?」
ワインレッドのセット下着まで忍ばせてあった。
装飾は余りなく服のラインに響かないタイプ、というやつだろう。
あとは二ーハイソックスと、ガーターベルト。
これを着けろと言うことだろうか。
「……」
私は脱衣場のドアを見た。
部屋の外には彼がいる。そんな状態で一度全て脱いで、彼の用意したものを身に付けるということに、些かだが疑念と、恥ずかしさがわいた。
「…と言っても、しないわけにはいかない。」
わたしは頭を振った。覚悟を決めて、身に付けている服に手を掛け始めた。
「お待たせしました。」
「いや、大丈夫だよ……よく似合っている。やっぱり君には赤が似合う。」
満足そうに笑う彼の顔を直視できず、私は手に持った自分の服に視線を向けた。
「これ、部屋に置いてきます。」
「いや、ここに置いたままでいいよ。どうせ戻ってくるんだし…さ、行こうか。」
ザクト様は私の服を引ったくるように受け取り、リビングの椅子の上に置いた。
さらに私の手を握り、部屋の扉に向かう。
「ザクト様?」
「花、持っといて。」
渡された一輪の薔薇を、空いている手で受けとる。
大輪の薔薇だ。瑞々しい赤。
ただし生きている気配はない。特殊な加工を施したものだと気づく。
私がそれに眼を奪われている間にザクト様は地下車庫まで足を運ぶ。
ザクト様の車のコレクションのうち、今回は赤いスポーツカーを使うようだ。
助手席に座って、薔薇を膝の上に置く。
ザクト様も運転席に座り、懐から先ずはシガレットを取り出して加える。
「吸うけどいいよね。」
「はい。大丈夫です。」
ライターの着火音が数回鳴って、やがて煙が漂う。
ザクト様の部屋に微かに漂うものと同じ香りだ。
エンジンが掛かる。
少し大きいエンジン音を立てて車は走り出した。
平日の街に車は少ない。特にオフィス街のここでは、運搬業者と旅客業者の車両以外はほどんど見ない。
繁華街、こと、歓楽街もそうだ。
前者は人が多いから迂回したが、後者の歓楽街に車は向かった。
目的地は歓楽街なのだろうか。
ザクト様は何も言わない。
ただ、さっきから黙ってタバコを吸うだけだった。
…そういえば、彼が私の前で吸うのは初めてなのではないだろうか。
今まで視たこと無かった彼の姿に私は少しだけ緊張した。
膝の上の薔薇をみて、私は気分を落ち着かせようと試みるけど、中々そうもいかない。
「あのマンションだ。」
「はい。」
歓楽街にある高級マンションの一つをザクト様は指し示した。
そこの駐車場に車を駐めて、私達は敷地内に足を踏み入れた。
その部屋は綺麗に片付いていた。
家具に、調度品も一目で高価と分かる。ザクト様の個人的な部屋かとも思ったけど、この部屋はどことなく女性の気配を感じた。
でも人の住んでいる気配は、ない。
ただ部屋の中央のローテーブルの上に薔薇の花束が花瓶に挿されて飾ってある。今私が持っている薔薇と同じものだと分かる。
「ここはね、ショウエン」
部屋の奥のリビングの窓を開けながらザクト様が私に声を掛ける。
一つ一つを確かめるように窓枠に触れてそこから見える景色を見つめて。
「俺の、母親の部屋だったんだ。」
振り向いたその顔は驚くほど無表情だ。
「ザクト様の、お母様の…?」
部屋だった。
過去形だ。確かに今までザクト様を始め三兄弟方の母親の話は聞いたことがない。父親である前総帥は既に亡くなっているということは知ってはいるが…。
「母は高級娼婦だったんだ。親父のお気に入りでね、この部屋を貰っただけじゃなくて服や、金さえも思うがまま貰えたそうだ。」
「……」
「父には大勢愛人がいた。正妻はガラス兄さんの母親だったけど、彼女は夫の不貞に関しては全く干渉はしなかった。止めても無駄だという諦めと、自分は正妻だという自負…余裕があったんだろうね。フィーナ姉さんの母親は看護師だったかな。親父が虫垂炎になった時に担当だった人だ。そのまま口説いて、フィーナ姉さんが出来たんだってさ。たしか、若くして未亡人とかだったかな。変わった人でね、親父が資金援助を申し出ても断っていたんだと。んでその後に俺の母親と出会ったそうだ。若くて元気な、愛嬌のある若い女。遊ぶには丁度良かったそうだ。」
彼がソファに座る。私を手招きしたからその隣に座った。
てに持っていた薔薇を渡すと、彼はそれを目の前のローテーブルに置いてあった花瓶に差し込んだ。
「母も最初は遊びで付き合っていたんだけど、何時しか本気になっちゃってね。正妻になろうとしたんだ。そのために親父専属の娼婦になって、俺を身籠もって産んだんだ。親父からの関心を引くためにね。結果、高級マンションを宛がわれて、愛人達の中でも高い位置付けを得た。でも彼女はそれに満足しなかった。自分と同じ、親父の子供を産んだ女達を消そうとしたんだ。ガラス兄さんの母親、フィーナ姉さんの母親…母の仕業かどうかは結局分からなかったけど、その二人は程なくして死んでしまった。両方とも病死だった。俺は今でも覚えている。母が喜んでいた顔を。」
「……」
「でも父は、母を正妻にしようとはしなかった。最初の妻が忘れられなかったからなのか、別の理由かは分からないけどね。それでも母の気持ちは幾分落ち着いたようだった。俺も父に着いていって仕事に関わるようになった。父の機嫌を取るために、あらゆる要求に応えた。賢い子供、強い子供、組織内のゴミを排斥するために子供という姿を利用することも厭わなかった。それはただ一つ。母の為だ。その甲斐あって、母の立場も組織内で段々と揺るぎないものに成っていったんだ。」
そこまで話すとザクト様は一度大きく深呼吸をした。
「だけど、母の心を揺るがす事態が起こった。親父が新しい愛人を作ったんだよ。自分より若くて、自分よりも愛情を受けて…そして、誰よりも自分の傍にいた者だった。…俺だよ。親父は幼い俺に手を出したんだ。俺と親父がそういう関係になってから母は狂った。俺は最愛の男を奪った者、同時に最愛の男の息子。その憎悪と愛情の狭間で母は徐々に正気を逸脱していった。そしてある夜。母は俺を殺そうとした。伸びた爪が喉に食い込んで、皮膚が裂けて血が出た。いたい、止めてと叫んで母は正気に戻る。でも親父が俺を抱く度に母は俺を殺そうとする。絞殺、撲殺、刺殺、薬殺、焼殺、あらゆる方法で俺に手を掛けてきたけど、途中で正気に戻って泣く。俺の身体が傷だらけになっていくのを見て、親父も俺から手を引いた。だけど、それは代わりの誰かがまた犠牲になるだけだと俺は分かっていた。それが誰になるのかも。母はそれに気付いていた。そして、今度こそ本当に殺そうとしたんだ。今でも覚えている。親父が護身用に持っていた銃の重さと、爆音。死んでいく二人の顔が。」
ザクト様は立ち上がって、リビングに隣接したドアの一つに手を掛けた。
中はカーテンが引かれて薄暗かったが、辛うじて大きなベッドが見えた。
「気が付いたら病院のベッドの上だった。兄さんと姉さんが心配そうな表情で俺を見つめていたんだ。」
灯りが点く。
リビングと同じく片付けられた部屋。
しかし床と壁と、天井にうっすらと染みが残っていた。
夥しい数の、血痕。
「父と母が愛し在った場所だ。同時に、父と母を殺した場所だよ。」
ザクト様は私に背を向けて天井を見上げているから、その表情は分からない。
でも声は低い。感情も伺えない。
少し、怖い。
「…父を殺してから、俺達の組織は他の組織から襲撃を受けるようになった。だが兄さん達が早い段階で対処していたから俺は殆ど動かなくて良かった。でも、それでも戦闘が必要なときは俺は身を投じた。こんな事態を引き起こしてしまったせめてもの罪滅ぼしにな。…でもそれは父に対してじゃない。同じ血を分けた兄さんや、姉さんに対してだ。…父は確かに大した男だったよ。一代で巨大な犯罪組織を作り上げて、何人もの女を惚れさせてさ。富と、権力と、女を手に入れた。いや、女だけじゃないな。兎に角あらゆるモノを手に入れてさ、でも最後は自分の子供に殺されたんだ。こんな、汚い街の、狭い部屋の中でな。全く、滑稽だよ。」
段々と口調が荒くなってくる。彼にしては珍しく感情が表に出てきているのだと感じた。
怒りとも、苛立ちとも違う感情。これは、後悔?
「…ザクト様が助けようとしたのは、ご兄姉だったんですね。」
「…そうさ。奴は俺の次に姉さんに手を出そうとしたんだ。それだけは許せなかった。この世界でただ二人だけの兄姉なんだ。誰にも壊させやしない。だから殺したんだ……あの二人を…。」
ザクト様が全総帥の死に何らかの関わりがあることは、D達の態度から分かっていた。
この事実は組織の上層部では既に知れ渡っているものなのだろう。
おそらく、上層部と関わりが深い人間で知らなかったのは、私だけ、だ。
「今、私にその事を教えたのは何故ですか?」
彼はこちらを向いた。
眼を細めて私を見ている。少しだけ、苦しそうな面持ちで。
「俺は親殺しだ。目的のためなら、何でもする人間だ。俺だけじゃない。組織を存続させるためなら、どんな手段も厭わない。それが俺達の居る場所。……ショウエン、君はそれを知ってなお、俺の傍に居たいか?」
ああやはり、そういうことだったのか。
彼は、彼自身の全てをさらけ出した上で私に判断させるつもりだったのだ。
私は決定権など持たないというのに。
私の全ては私のモノではないの言うのに。
「私は7年前のあの時から、貴男の傍にいると決めました。しかし、貴男が私を必要としないのであれば私は貴男の傍から去ります。」
「俺の傍を離れたところで、ディルは君を離さない。」
「そうだと思います。」
機械の神は、来るべき時まで私を配下に置くと仰っていた。
しかし目の届く範囲、すなわち組織内であれば誰の下についても良いと仰ってくれた。
もし該当が無ければディル様の配下になる。
「俺は」
ザクト様が絞り出すように声を出した。
その顔は苦渋。
「俺は、あいつに君を渡したくない。」
「…え?」
何、今なんて…?
「君とあいつの間に何かがあるのは分かっている。俺が入り込めない、何か絆の様なモノがあるのを。でも俺は君をあいつに渡したくないんだ。」
彼が手を伸ばす。信じられないことに震えていた。あれだけ凄惨な襲撃を行っても、人を殺しても全く動じない彼が。
震える手が私の肩に辿り着く。両の肩を掴まれているというのに、身を捩れば直ぐにでも抜け出せそうな程彼の手に力は掛かっていなかった。
私は顔を上げた。
青灰色の瞳はまるで捨てられた動物のように悲しく揺れている。
私は思わず彼の頬に手を伸ばした。冷たい。色といい、肌触りと言い陶磁器人形の様だった。
「震えています」
「怖いからね」
「何が、怖いんですか」
「君が俺の元から去るのが」
彼の右手が肩から離れて、彼の頬に触れる私の手に重ねられた。
「私は貴男の傍にいます。私という『人間』は、全て貴男のものです。」
直ぐに、力強く彼に抱き込まれた。
嗅ぎ慣れた煙草の臭いが私を包み込んだ。
「君は、いつだってそうだ。こんなどうしようもない屑に、怖いくらい真っ直ぐ感情をぶつけてくる。置いていっても、遠ざけても、俺を…」
段々と腕に力が込められてくる。
彼の感情がやっと、私に向いた瞬間だった。
震えている彼を私は抱きしめる。
漸くだ。
漸く彼女に伝えることができた。
親殺し。
世の中の汚泥にまみれたこの身。
俺の地位を慕う俺の部下達とは違う。
俺自身を只見つめる少女。
ショウエン。
俺は君を、愛している




