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『煙』15.狩り

15.狩り


「本当なんだ親父、やばいんだよ!」

あるビルのある部屋で、若い男の焦った声が響く。

制服を着崩し、憔悴しきった様のその男はバルト。

「しつこいぞ!昨日は使っていないとはいえ倉庫を一つダメにしおって!」

「あれも俺のせいじゃないって!あいつらが、やったんだ!」

「だからあいつらとは誰なんだと聞いている!!いい加減にしろこの馬鹿息子が!倉庫だって利用価値が低いとはいえタダではないんだぞ!!大方ガス遊びでもして煙草にでも引火したんだろ!!ったく、いい加減にしないと、お前に社長の座を譲るのを白紙にするぞ!!」

バルトと対峙していた壮年の男性が苛立たしげに叫んだ。

太い葉巻を口にくわえて火を付けると乱暴に席に着く。

その様子にも、バルトはかまわず喚く。

「本当だよ親父、なんかヤバイ組織が絡んでるんだって。闇討ちしようとした女を仕留められ無かっただけじゃなく、俺の部下みんな頭ぶち抜かれて死んでたんだ!ゴミ捨て場で!!」

「…組織だと?馬鹿を言うんじゃない。今はもう殆ど掃討されているんだ。それだって、おもちゃで遊びたいごろつきが手を出しただけだろう。」

あくまで相手にしない父親にバルトは口を閉ざした。

何を言っても聞き入れてはくれないと、そう考えた。

その様子に男性…アドラーも言い過ぎたかとそれ以上言葉を重ねるのを止めた。

「……仮に、どこかの組織がお前を狙っているとしても最新鋭のセキュリティを詰めたこのビルの中に居れば安全だ。それに儂の軍隊がお前を守る。そこいらの公安部隊よりも、儂の軍勢の方がよっぽど強いからな。」

「!親父…」

「心配するな。お前は儂と儂の会社によく貢献している。お前のお陰で今までの契約は上手くいっているからな。」

アドラーは顔を歪める。

「お前が若い女を拐かし、取引会社の重鎮に差し出す代わりに我が社の土地を買って貰う。お陰で膨大な利益がこの短期間で転がり込んできた。恨みも買ったが、それも力でねじ伏せられるようになった。力は金で買える。金さえあれば、この街では頂上までいけるんだよ。儂が頂上までいったら、次にその座に座るのはお前だ。」

半ば自分の言葉に酔いしれながら語る自分の父親に、バルトは幾分落ち着いた。

そうだ、自分の父親はもはやただの一般市民ではない。

強力な私設兵団を所有している組織の長であることを思い出す。

「そ、そうだよな親父。ごめん、取り乱して。」

「なあに、気にするな。それにその厄介な女、ショウエンか。なんだったら儂の兵士で誘拐して売り払うってのもありだぞ。」

「!良いのか親父、兵士使っても。」

「ああ、かまわない。チンピラでは役不足でも、武器で武装した兵団なら流石に」

『お話中申し訳ないが、それは無理な話だ』

突如、部屋のスピーカーから若い男の声が聞こえる。

「だ、誰だ!!」

『さあ?誰だろうね。でも君たちは派手にやりすぎた。ゴミどもが居なくなって静かになりそうだったこの街に、再び騒ぎを起こしているんだから。』

「貴様、こんなふざけたことしてタダで済むと思っているのか」

アドラーが吐き捨てるように言う。しかし、スピーカーの向こうの声は鼻で笑う。

『勿論、きっちり礼はするよ。僕の部下に手を出したんだからね』

バルトは大きく震えた。

「な、や、やっぱりショウエンは…!!」

「部下だと?どういうことだ!たかがジュニアハイの生徒が組織など…」

『歳なんて、我々には関係ないのだよ。…それに、まだ気付かないのかい?』

その声には既に笑いが混ざる。

愚か者めと、嘲笑う。

『僕の声がそこに届いているという時点で、君たちご自慢のビルのシステムはこっちのものになっているんだよ?』


「じゃあね、精々大人しくこそこで待っていると良い。」

時刻21:05。ザクト様がマイクを戻す。

作戦を開始した時刻21:00からザクト様は無線機のようなものに話しかけていた。

Dが小声で言うには、今から襲撃するビルのとある部屋のスピーカーに接続されているらしく、そこにいる人物に話しかけていたらしい。

その回線を初めとして、セキュリティシステムはディル様によってこちらの手の内に落ちているとも。

私は太ももに装備したナイフを確かめる。

そして、渡されたハンドガンも装弾されているかを確認してホルダーに戻す。

「さて、お礼に行こうか」

ザクト様の号令で、私達六人は得物を構えた。

Cが車のドアを開ける。

そのままAを先頭に身を低くしたまま転がるように出て暗い路地に身を滑り込ませる。

車を移動させる役を持ったB以外に全員が入ったのを確認して、車はどこかに走り去っていった。

今から侵略するビルは、路地の向こうに見えている。

路地の先の広い道路を挟んだ対岸。

夜だというのに煌々と明るい光を発し、近付くものが居れば直ぐにばれてしまいそうだ。

「今から1分後に局所的な停電が起きる。その間にAとCは正面玄関から潜入。DとEは裏手の通用口から潜入。俺とショウエンは『上』から行く。」

「「了解」」

それぞれ位置に付くために暗闇に消えていった。

私とザクト様はというと、ビルの屋上から潜入する為にこの路地の上に行かなくては行けない。

既に手段は打ち合わせ済みだ。

私は左腕に装備したウインカー付きのアームを頭上に掲げた。

壁に突き刺さるように少し傾けて発射する。

ガチリとコンクリートに突き刺さる音が聞こえたから、私はウインカーを巻いた。

空に身体がつり上げられる。

続いて右腕も頭上に掲げて発射する。

それを二三回繰り返すとビルの屋上に登り着いた。

縁まで行くと道を挟んだ向こうに潜入先のビルの屋上が見える。

あと10秒でこの一体が停電する。

5,4,3,2,1

バチンと何かがはじける音が周囲に響いて、辺りは真っ暗になった。

「作戦スタートだ。ショウエン。」

ザクト様がパイルバンカーを構える。

彼の得物、大型杭打ち器だ。

装弾は針弾だけでなく、火炎弾や化学薬品弾など状況に応じて装填が可能となっている、らしい。

今回は、向こうのビルに移るための縄を張る為に使うようだ。

撃った弾の後ろからワイヤーが伸びている。

向こうに弾丸が刺さったのを確認して、こちら側のロープも固定する。

そして携帯スライダーをセットした。

「僕から行くよ。」

パイルバンカーを背負い直してあっという間に向こうに渡っていった。

私は縁に立つ。

およそ100メートル程の高さ。

ビルに沿って風が舞う。自然と恐怖は感じない。

腰のポーチから携帯用スライダーを取り出してロープにセットした。

向こう側でザクト様がこちらを見ている。待たせるわけにはいかない。

「っ…っと」

スライダーをしっかり持って縁を蹴る。暗闇の中、迫ってくる着地点に集中して体勢を整える。

「上出来。さすがだね。」

「ありがとうございます。下は、もう始まっているのですね。」

微かに銃声が聞こえてくる。下の階からだ。

「そうだよ。社長室はこのビルの中間階にあるそうだから、俺たちも行こうか。」

ザクト様がヘルメットを付けたのを見て、私もそれを装着する。

バイザーをおろして暗視スコープを起動すると、視界が明るくなる。

屋上から屋内に入る扉が目に入る。

タッチパネルによる番号ロック式だが、既にディル様によって開放しているらしい。

建物内部の各出入り口も、同じようになっているらしい。

停電の直前に全出入り口を開放することで、攻略を簡易にしているのだとも、ザクト様は仰った。

「ショウエン、この先100m地点に三人いる。俺が排除するからまあ適当に見ておいて」

「了解。」

ザクト様がホルスターからサイレンサー付きハンドガンを取り出す。

それに少し遅れて、暗い廊下の先から足音が複数響いてきた。

目を向けると、暗視スコープがサーモスコープに切り替わり、人型の発熱体を捉える。勿論、人だ。

あちらも銃で武装しているようだが、その動きからこちらを認識はしていないようだ。

隣でセーフティーを外す音と、空を切る音三つ。

遅れて熱源体は床に崩れ落ちた。

「制圧。」

「鮮やかです。」

「ふふ。…この階の見張りはこの3人のようだね。」

廊下を進むが、人の気配はない。サーモも反応はないことからザクト様の言葉の通りのようだ。

「各階に三人ずつ配置しているとして、最低100人か。ま、社長室近辺はもっといるだろうから、ざっと百二十人と考えて…一人あたり二十人くらいか。」

「六人で制圧されるおつもりですか。」

「不安かい?」

廊下の突き当たりにはエレベーターホールと階段室があった。

停電中だからもちろんエレベーターは使えない。階段室に向かうと微かに発砲音が響いてくる。

「下の階で交戦中か。…こちらザクト。最上階階段室に到達。敵影なし。各員状況を説明せよ。」


ザクト様の声がヘルメットのスピーカーを通して聞こえてくる。

『こちらD。五階までを制圧。現在は六階エレベーターホールにてC、D、Eと共に交戦中。周辺階の警備員も集まっています。』

「わかった。敵の数は。」

『…現時点で二十三人を撃破。交戦戦力は…十三人です。さらに増援は階段室からです。』

「制圧できそうか?」

『三十分もすれば。』

「了解した。そのまま続けろ。俺はショウエンとともに18階の重役室を目指す。追いついて来いよ。」

『『『『了解』』』』

Aとの通信が一旦途切れる。

続いてまた別の通信が。

『こちらB。ポイントに到達。外部に異常なし。警察当局も気付いていないようです。』

「了解した。そのまま逃走する者がいたら殺れ。」

『了解』

通信が途切れる。

「俺達も移動しようか。」

「了解しました。」

暗い階段室に足を踏み入れる。

非常事態用経路だけあり、装飾性は無いが作りはしっかりしている。

「……下階にはまだ警備が居るみたいだな。」

ザクト様はバイザーを視ているようだ。何が映っているのだろうか。

「ああ、見るかい?」

その言葉が終わると同時にモニタに複数の画面が映る。

画面の右下にはフロア数が印字されている。視点の高さから監視カメラの画面のようだが。

「ディルが監視カメラだけ作動させているんだ。器用だよな、あいつ。」

「ええ、凄い方ですね。」

まだ再会していない神様。ディル様。

私に魔法『機械』を授けてくれた御方。

「こっちは少人数だから手早く行こうか。」

ザクト様が次の階に足を踏み入れた。私もそれに続こうとしたが。

「ショウエン、ディルから教えられた魔法で他階を封鎖してくれ。トラップを作る魔法なんだろ?」

そう指示があった。

「了解しました。」

私はザクト様と別れて下の階に行く。

『……ショウエン。』

突然ヘッドギアのスピーカーから声が出てくる。

ザクト様の声ではない。これは、

「お久しぶりです。御大。ご挨拶に伺えず申し訳ありません。」

ディル様の声。

『気にしないでくれ。…初陣だね。私は嬉しいよ。』

「今から各階、エレベーターホールにトラップを仕掛けようと考えています。」

下の階へ。

私は警備兵の気配が無いのを確認してエレベーターホールに足を踏み入れた。

『そうか。では魔法『機械』第七と第十を組み合わせればいいだろう。』

第七機械魔法『アイアンジョー』、踏み込めば地面から巨大な顎が現出する魔法。

第十機械魔法『ラウンドネット』、踏み込めば地面から網が現出し敵を巻き上げる魔法。

私は指示通り、魔法の準備をした。

触媒になる蔓の種を巻いた。

魔法をイメージし、魔法陣を頭の中で組み立てる。

そして種に念じる。魔法陣を描け、と。

直ぐに発芽し、想像通りの陣が描かれる。

アイアンジョーとラウンドネットを張り巡らせて、私は更に下の階に降りた。

ここでも同じ様に魔法を使う。

その後三つのフロアで作業を繰り返し、ザクト様のいる階に戻った。

くらい廊下の先に、熱源体が一つ。

彼だ。

「ご苦労、ショウエン。この階で面白いものを見つけたよ。」

「面白いもの、ですか。」

彼はナイフに付着した血を払い太もものホルスターに戻す。

あれで敵を殺したのだろう。

「…この会社が人身売買をしているのは知っているだろ。」

「はい。女性を性商品として扱っていたとのことですね。」

「そうそう。酷い話だよ。んで、その商品達は拐かされた後に洗脳を受ける。ほとんどは麻薬だ。あるいは電子ドラッグと言われている視覚情報から脳に干渉する類いのものだ。ここは後者が多いみたいだな。」

ザクト様が示した先には、大きな鉄の扉があった。

その前に五つの、死体。三つは喉を裂かれて絶命。

二つは、杭のようなもので心臓を貫かれ壁に縫い止められて立ったまま死んでいる。

扉の前の死体を蹴って退け、開くと。

「うっ…!!」

中には、大きな鳥かごが、沢山、あった。

その中にいるのは下着しか身に纏っていない若い女。女。女。

みんな眠っている。

不気味なほど、静かだ。

「重役室が中間層にあるのもこれが要因だな。見られちゃ不味いもんは上に、か。」

「……」

私は言葉をなくした。かつて自分もこのように売られる立場だったのだ。

それを、今目の前にいる人が助けてくれた。

でも、彼女達は?

「心配しなくても、ことが終わったらサツに連絡入れてこの子達は助けるさ。さて、戻ろうかショウエン」

「……了解しました。」


「七人、八人、九人っと」

「数えるの止めろ。集中が途切れる。Eを見ろ、無言で殺っているぞ。」

Dがショットガンの弾丸を詰め、前線のEに渡す。

Eがショットガンで撹乱し、その背後からAとCがハンドガン、ライフルで一人一人確実に撃墜していく。

死体が山となって詰み上がっていく。

「Dよお、そろそろ退屈になってきたんだけど、どんな感じなんだ?他階。」

「ジャックしたカメラから判断するに、各フロア一人を残して15階までの警備兵はこの階に集まっているようだ。」

「んじゃさ、俺がこっそり上に上がって静かに制圧してくるぜ。この場四人もいらんだろ。ダストシュートがあったから、そこから行く。」

Cは前線から退き、Dとダストシュートの位置を確認する。

「常に監視モニターを見続けろ。一人に無勢は流石に危険だからな。」

「了解。」

そう言ってCはDたちから離れた。少し進んだ所にトイレがあり、そこの入り口横にダストシュートの窓があった。

エレベーター式のシュートのようで、ボタンを押してリフトを呼ぶ方式だ。

Cはポーチから道具を取り出して扉を開けた。

直径七十㎝ほどの四角系の縦穴が建物を貫いている。

リフトは最下階に固定されている。

目の前にあるのは太い鉄筋だ。耐荷重量は120kg。装備を入れてもCがぶら下がって問題はない。

ライフルを背負いCはワイヤーに腕を伸ばした。

腕の力だけで一気に三階上、つまり九階に上る。

「(監視カメラ確認…)」

ジャックした画像から、ダストシート付近に警備兵がいないことを確認して窓を開ける。

暗闇に転がり出て、先ずはハンドガンを構えた。

誰もいない。監視カメラの映像を次々に切り替え、この階の警備兵を探した。

「(セキュリティのために多数設置したのが、仇になったな。)」

警備兵は部屋を一つ一つ回っていたようだ。

Cはこの階の警備兵の動きから次に訪れる部屋に先回りをした。

物音が立つように仕掛けを作り、自分はその反対側の書類棚の影に隠れ、待った。

「(……来たか。)」

部屋に入ってきたのをモニターで確認し、あとは目視に切り替える。

ハンドライトの光がまず部屋を回る。

そのあとぐるりと一周し、また次の部屋へ、というのがこの警備兵の動きだ。

この部屋でもそうだ。

今Cの居る方に向かって歩いてくる。

「(まだ……あと、少し。)」

仕掛けのスイッチを押すタイミングは、Cが隠れている場所を通り過ぎるまさにその時に、だ。

手首に仕込んだワイヤーを引き延ばした。

「(あと三歩……二歩…一歩……GO)」

Cがスイッチを押すとデスクの一角に積み上がっていた書類が崩れ落ちた。

警備兵がそちらに注意を向けた瞬間、Cは暗闇から飛び出した。

ワイヤーが警備兵の首に食い込んで数分も経たないうちに兵士は床に崩れ落ちた。

口からは泡を吹き、顔を真っ赤にして、絶命した。

「こちらC。九階の警備兵を撃破。ついでに通信インカムも入手。」

Cの報告に返したのはザクトだ。

『よくやったC。…インカムが手に入ったといったな。それで他階の奴らを西側の窓におびき出すことが出来るか?Bに狙撃させる。』

「恐らく出来ますが、たしか窓は全て防弾ガラスだったと思いますよ。こちらのライフルが通りますかね。」

『Bにはマグナムライフルと対物狙撃ライフルを持たせている。下層の窓で実験したがマグナムライフルで貫通を確認済みだ。B、出来るな。』

『承りました。』

「じゃあ頼むぜ。………こちら9階、異常はなかったが西側の窓からの進入が心配だ。各自確認に回ってくれ。」

インカムをつまみ上げて手短に仲間に流す。

恐らくある程度の階層までしかこの電波は流れないだろう。

もし警備兵達が今Cが流した通りの行動をすれば、その範囲も確認できる。

「通信完了しました。Bの報告を受けてから、下階の援護に向かいます。」

『了解。』


Bはスコープを覗き込んだ。Cの指示から程なくして、まず七階の窓に人影が映る。

警備兵に間違いない。

素早く照準を胸に合わせ、引き金を引いた。

スコープの向こうで割れるガラスと、その後ろで倒れる人影を確認して、上へ。

同じように窓辺に立つ人影があった。

引き金を引く。割れるガラス。崩れる人影。

次は十階へ。ここは人影が二つあった。

しかも下階の音を聞いたらしく、窓を開けて確認しようとしている。

Bは隣に設置していた対物狙撃ライフルに移った。

威力が大きく、貫通力はマグナムライフルよりも上だ。

上手くいけば一発で二人仕留めることが出来る。よほどの腕が必要だが、Bには容易いことだった。

続いて11階に、今度は三人だ。

Bは淡々と行う。西側の窓は、十五階まで赤く染まった。

「こちらB。警備兵は七階、八階は一人。十階は二人、十一階から十五階は三人だ。十六階以上に人影はなかった。」

『一人じゃなかったのか…ってことは、上の階から増援が来ていたのかもな。あとインカムの通信範囲は15階までか。』

「みたいだな。敵の動きがあまり読めない。音声のジャックと映像をこちらでチェックし流していく。」

『了解!ザクト様はどんな感じですか?』




「現在二十六階まで制圧完了だ。ショウエンが大活躍している。D達はなんとか突破して階段室を確保しろ。Cも早めにD達と合流。十八階の階段室で合流し、重役室を攻めるぞ」

『『『『了解』』』』

俺は通信を切った。

よく働く部下達をもって、俺は幸せだ。

ショウエンも予想以上の活躍をしてくれている。

最初に仕掛けた三つのフロアでは、その階の全ての警備兵を罠に封じ込める事に成功した。

動かない的なら、銃弾は最小限だけでいいから楽だ。

今は一気に二十二階まで罠を張って貰っているが、そろそろ疲れが出ている。

一端休ませて、俺も動こう。

下から上ってくる音が聞こえる、ショウエンだ。

「二十二階まで設置しました。」

「ありがとう、二十一階からは俺が動くよ。多分、今までとはちょっと違うのが出てくるだろうから。」

「了解しました。」

あまりにもショウエンがまっすぐに俺を見つめるものだから、俺は思わず彼女の頭をヘルット越しに撫でた。

甘んじて受け止めているが、やはり直接肌に触れないと面白いことをしてくれないようだ。

この遊びが終わったら、散々、可愛がってやろう。

ゴミ掃除も山場を超えた。

「さて、もう一踏ん張りだな」


「どういうことだ……どういうことだ!!!」

アドラーは次々に入ってくる警備兵の制圧報告を聞き、焦りを表に出した。

最高とも思えたセキュリティシステムに最強とも思えた人員。

それが1時間も経たないうちに崩壊し、残るフロアは自分たちのいる18階とその下の17階だけだった。

17階の警備員も既に大半が死に、動けるものは18階を固めさせている。

このままでは自分たちの身も危ない。かと言ってもうどうすることもできない。

外にスナイパーが居るのは分かっている。逃げることすら、出来ない。

「十七階!応答せよ!!」

『じゅ、十七階、もう、うわああ』

最後に断末魔が聞こえて、通信は途切れた。

銃声が扉の向こうから直に聞こえてくる。

重役室にはアドラーとロメオ、その周りには特に戦闘力の高い用心棒が五人、更には入り口の内外には十人あまりが固めている。

しかし、これまでの状況から考えると人数は無駄だろう。

ならば、敵がこの部屋に踏み込んだ瞬間に不意を突いて攻撃できれば…

「親父……どうすれば…」

「お前は黙っておれ!くそっ、元はと言えばお前が派手に動きすぎた所為だ!!どこかの組織に目を付けられていたんだ!!」

「そんな!親父だってもっとやれって言っていただろ!なんでもかんでも俺の所為にするなよ!!クソ親父!」

「親に向かってなんて言い方だ!!スラムのゴミ溜めから救ってやったのを忘れたのか!!これだから下卑の出はだめなんだ!!!」

「!!」

「母親の出自が悪いと子供まで出来損ないになるのなだ!!」

「母を……ママを侮辱するな!!元はと言えばあんたが!!」

『ぎゃああ!!!』

激しいロメオ親子の言い争いも扉の直ぐ外の悲鳴で止まった。

用事棒達は扉の左右に張り付いたが、すぐに。

「「!」」

巨大な杭のようなものが壁を貫通して二人を貫いた。

完全に心臓を貫かれた二人は痙攣し、絶命した。

「か、構えろ!!扉が開いた瞬間に銃弾を撃ち込むんだ!!」

悲鳴のようなバルトの命令に銃を持つものは扉に銃口を向けた。

扉のドアノブが外から破壊される。緩くなった扉がほんの僅か開いた、その瞬間。

「なっ、蛇!?」

「ぎゃあ!!」

長細い蔓が地面、天井構わず蛇のように這い出し次々に銃を持つ警備兵、SP達を拘束した。

バルトは動けないSP達の一人から銃を奪い取り、構えた。

「だっ、誰だ!!」

扉が徐々に開いていく。開いた瞬間に、一発撃ち込もうと構える。

しかし、突然の動きについて行けるほどバルトは銃に扱い慣れていない。

まして、死体が積み重なり、さらに蠢く植物に囲まれていて、本当は立っているのがやっとだった。グリップを握る手が震え、膝が笑う。

「くそっ…くそっ!!」

『「滑稽だな。」』

「「!!」」

スピーカーと肉声の両方の声が耳に入る。

その瞬間、扉が開け放たれ弾丸のように素早く動く何かが侵入してくる。

ナイフが空を切る音と、肉が断たれる音、断末魔。

それが立て続けに重役室に響き、血が床を赤黒く染め、鉄さびた臭いを充満させた。

「ひっ、ひいいい」

アドラーは腰を抜かし、後退る。

バルトは警備兵がどんどん屠られていくのをただ視ることしかできなかった。

「やっ、やめろ!やめないと撃つ」

どこかに照準を合わせようとしたバルトだったが、新たに入ってきた影に銃を持つ腕をひねりあげられ、地に附した。

「やめろ、いやだ、死にたくない!!助けてくれ!!」

「……」

「親父!助けて!助けてくれよ!!」

「あ、あ…」

助けを求められた父親は、ただ言葉にならない呻きをあげるだけだった。

既に彼らの味方は、物言わぬ屍になりはてた。

「片付いたか。」

最後に部屋に入ってきたのは、巨大なパイルバンカーを持った男と二丁拳銃を構えている男だった。

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