05:豪雨の中、婆の行方
幸いまだ川は決壊していないようだった。朝は家の中に保管しておいたバナナをひとり1本ずつかじった。私も食べた。絶対に食わないと決めていたものの、空腹には勝てなかったんだ。旨くはない。結局バナナより空腹の方がマシだった。もう食べるのは止めておこう。
カラが集落の男何人かと婆を探しに行くと出ていった。探す目星はつけているようだ。婆が木の実を集めに行く場所はたいてい同じ場所らしい。サリは周辺の地理には詳しいとは言えない。尤も外には出るなと言われたため、ダラやマヤと共に家に残った。
豪雨の中、何もせずに過ごす1日は大変長く感じた。汗がじわりとにじむ。髪は日常的にひとつに束ねているものの、その毛束が首筋に当たることすら暑苦しく感じた。ふと思い出し、小枝で髪をまとめ直した。簪の要領さ。すっきりとして心なしか頭も冴えてきた気さえする。ダラとマヤの髪も同じように整えてやると喜ばれた。
午後になると、集落の景色に少し変化が見え始めた。徐々にではあるが、地面が消えていっている気がする。気のせいではないと思う。地面が水を吸い込むよりも降る雨の方が多くなってきたためだ。まずいぞ、このままではあの夢のままの光景が出来上がってしまう。
3人がハラハラとし始めた頃、遠くから男たちの声が聞こえてきた。戻って来たか。
入り口に駆け寄り声の聞こえる方を見守った。激しい雨で視界は非常に悪い。男たちのくるぶしの辺りまで水が来ているように見えた。まだ川は無事のはずだ。決壊したらこんなものでは済まないだろうからな。
ずぶ濡れのカラが帰ってきた。カラひとりだ。危険なため捜索を断念して引き返してきたというその表情は厳しかった。婆はこの集落で最年長だ。長を務めているわけではないが、多くのものから何かと信頼を寄せられている。きっと誰もが婆の無事を願っているに違いない。サリも例外なく婆の無事を祈っていた。
そのまま日没を迎えた。雨は止まない。どれだけ降れば満足するのかと恐ろしくなるほど、依然勢いが衰えることはなかった。暗闇の中では外の様子を伺うこともできない。昨夜の疲労もあってか、4人で家の真ん中に集まりつつも、うつらうつらと夜は更けていった。
「サリ、寝所を使え」
油灯ひとつの暗い家の中でもわかるほど、目の下に強い疲労の色を見せたカラにそう言われた。私は疲労の中に期待がこもったその眼差しに気がついてしまった。やめろ、期待するな。そう都合よく夢は見れるものではない。けれど同時に身体が限界を迎えている自覚もあった。
「皆も寝よう。疲れ切っては婆を探すこともできない」
私の言葉に皆も無言で納得した。それぞれがいつもの場所に移動する。家の外からはビチャビチャと、雨が水面を叩きつける音が絶えず聞こえていた。
横になりながらぼんやりと婆のことを考える。
婆は少しずつ田畑へ行く回数が減ってきていた。もう歳だからね。それを責めるものはいない。婆が家の中で過ごす日には、たまに2人で話をした。それまで婆と2人きりで話したことはほとんどなかったから、婆が打ち明ける小さな秘密ごとを聞くのはとても楽しい時間だった。
(婆、生きているよね?この雨の中どこにいる?怪我をしてはいないか?)
濡れたままでは疲労も何倍も溜まっていることだろう。どうか無事でいておくれ。まだまだ婆といろんな話がしたいんだ。母さんや父さんの話も聞かせてくれると言ったじゃないか―― 婆――
婆のことを思いながら、いつしかサリは眠りについていた。




