71話主催者の流儀
V-CROWNの主催者、ブレイズが個人勢配信者としてこの業界に足を踏み入れたのは、今から五年前のことだった。
当時のブレイズは、今の豪快な語り口からは想像もつかないほど、地味で目立たない配信者だった。ただ、ゲームだけは、誰よりも好きだった。新作が出ればジャンルを問わず飛びつき、寝る間も惜しんでやり込む。攻略サイトを立ち上げられそうなほどの知識量を、来る日も来る日も配信で語り続けた。
だが、いくらゲームへの愛を語っても、視聴者はなかなか増えなかった。地味で目立たない実況配信は、当然のように界隈に埋もれていった。
それでも、ブレイズがVtuberという文化そのものへの愛情を失うことはなかった。素顔を隠しながら、思い思いのキャラクターを演じ、誰かと繋がっていく――その在り方に、彼は心から惚れ込んでいた。
(この文化を、もっとたくさんの人に知ってもらいたい)
その想いが、いつしか配信者としての野心よりも、強く育っていった。
転機になったのは、ある日、視聴者数人と一緒に開いた、ささやかな「身内大会」だった。ルールも運営も手探りのまま、それでも参加者たちは心から楽しんでくれた。
『こういう企画、また見たいです』
その一言が、ブレイズの中で何かに火をつけた。自分自身が目立つことよりも、誰かと誰かを繋げること、誰かの晴れ舞台を作ることの方が、性に合っている――そう気づいたのは、その時だった。何より、大会という場を通してVtuberという文化の魅力を、もっと多くの人に届けられるのではないか――そんな確信めいた予感もあった。
それから五年、ブレイズは配信者としての露出をあえて抑え、大会運営という道に軸足を移していった。V-CROWNは、その集大成として立ち上げた企画だった。
今回で六回目を迎えたV-CROWNは、回を重ねるごとに規模を拡大してきた。だが、ブレイズが大切にしていたのは、規模の大きさよりも、参加者一人ひとりが「出て良かった」と思えるかどうかだった。
だからこそ、後夜祭という企画を毎回欠かさず用意していた。勝敗を競う本編とは別に、参加者同士が純粋に楽しめる場を作りたい――その想いは、初回から変わっていなかった。
「――今年も、良い大会になったな」
大会後、配信のアーカイブを見返しながら、ブレイズは一人、満足げに呟いた。特に印象に残ったのは、クリムゾフィアたちのチーム「トライアド」の躍進だった。
(あの人を誘って、本当に良かった)
参戦オファーを送ったのは、単なる思いつきではなかった。これまで一切コラボをしてこなかった配信者が、大会という場でどんな化学反応を起こすのか――ブレイズは、その可能性に懸けていた。
結果は、期待をはるかに超えるものだった。準優勝という結果以上に、あの三人が築き上げた絆そのものが、視聴者の心を動かしていた。
「――さて、来年はどんな企画にするか」
ブレイズは、早くも次回への構想を練り始めていた。誰かと誰かを繋げる仕事は、何度やっても飽きることがなかった。それが、ブレイズという配信者の、変わらない流儀だった。
パソコンの画面に、いくつかの企画案を書き殴っていく。FPS大会は、もう五年間続けてきた鉄板企画だ。だが、そろそろ新しい挑戦をしてみてもいい頃かもしれない。
「――次は、もっと大人数が参加できる企画にするか」
脳裏に浮かんだのは、オープンワールド系のサバイバルゲームだった。マイクラやRUSTのような、拠点を築き、資源を奪い合い、時に手を組み、時に争う――そんな長期戦を、専用サーバーを借り切って開催する。個人戦でもチーム戦でもない、もっと大きな「クラン」単位の抗争。
(あれなら、今回組めなかった配信者同士も、また違う形で繋がれるかもしれないな)
ブレイズの口元に、悪戯っぽい笑みが浮かぶ。まだ誰にも明かしていない、次なる大構想だった。
「――さて、どこまで壮大な企画にできるか、楽しみだな」
誰に言うでもなく呟き、ブレイズは新しい企画書のファイルを立ち上げた。V-CROWNの熱狂も冷めやらぬうちから、彼の頭の中では、既に次の物語が動き始めていた。




