65話後夜祭
大会結果発表のあと、予告通り「後夜祭」と題した特別企画が始まった。大会要項にも当初から明記されていた、V-CROWN恒例のお楽しみ企画だ。
「さあ、大会本編はここまでだが――予告していた通り、お楽しみはまだ終わらんぞ!」
ブレイズが配信を通して声を張り上げる。
「後夜祭では、これまでのチームを一旦シャッフル! 本戦と同じく、初心者・中級者・上級者から一人ずつ、完全ランダムで新しい三人組を作って、お楽しみのカジュアルマッチをやってもらう! 勝敗は関係なし、純粋にお祭り騒ぎだ!」
『毎回恒例の後夜祭、今年も楽しみにしてた』
『クリム様、次は誰と組むんだ』
『このシャッフル、いつも予想つかなくて面白いんだよな』
叶は少し名残惜しさを感じながらも、新しい抽選盤に視線を移した。フィガロとシャーロットも、それぞれ興味深そうに画面を見つめている。
「――なんだか、寂しいような気もするな」
「私もです。でも、これはこれで楽しみですね」
シャーロットの言葉に、フィガロも頷いた。
「うむ、また別の縁が生まれるのも一興よ」
再びダイスが転がり、新しいチームが発表されていく。叶は初心者枠のまま、新しい中級者・上級者の相方と組むことになる。叶の番が来ると、配信のコメント欄が一気に沸き立った。
「クリムゾフィア――引き続き初心者枠として、新たな中級者・上級者との組み合わせだ!」
読み上げられた名前は、これまで一度も接点のなかった二人の配信者だった。中級者枠は、犬の獣人という設定の、明るい男性配信者。上級者枠は、氷の妖精という設定の、物静かで実力派の女性配信者。
「よ、よろしくお願いします……! ずっと見てました、クリム様の配信……!」
犬耳の配信者が、わかりやすく緊張した声で挨拶をする。叶は思わず微笑ましくなった。
「うむ、こちらこそよろしく頼む。我はまだまだ未熟だが、力になれるよう頑張ろう」
「そ、そうですよね! 俺も中級者って言っても大したことないですけど、頑張ります!」
もう一人の氷の妖精設定の配信者――上級者枠の彼女は、静かに一言だけ添えた。
「……よろしくお願いします。足を引っ張らないよう、援護に回ります」
寡黙ながらも、その声には確かな頼もしさが滲んでいた。
――だが、その頼もしさが発揮される場面は、なかなか訪れなかった。
「よし、降下するぞ!」
「あ、あの、俺、降下地点間違えたかもしれません……!」
開始早々、犬耳の中級者が単独で見当違いの場所に着地するという珍事が発生した。
「――待て、貴殿だけ随分と遠いところに降りたな」
「す、すみません! 今合流します!」
『いきなり事故ってて草』
『中級者なのに操作パニックになってて草』
『クリム様の困惑した声いいなw』
合流するまでの間、叶と氷の妖精の彼女は物資を漁りながら待機することになった。だが、そこでも予期せぬハプニングが起きる。
「――クリム様、それ、私の物資です」
「あ――すまない、間違えた」
「……いえ、大丈夫です」
その後、ようやく犬耳の彼が合流を果たすも、興奮のあまりボイスチャットで一人だけ声量がやたら大きくなったり、索敵報告のつもりが独り言のように長々と喋り続けたりと、まとまりのない連携が続いた。
「――右に敵! いや違う、左だ! いや、待ってやっぱり右だった気がします!」
「――どちらだ、貴殿」
「す、すみません、混乱してます!」
その慌てふためく様子に、叶までもがつられて緊張し、咄嗟に間違った方向へ動いてしまう。
「――クリム様まで混乱してるwww」
「これもう漫才だろ」
「息ぴったりに間違えるの逆にすごい」
そんな中、氷の妖精の彼女だけが、終始冷静沈着だった。二人が右往左往する間に、静かに側面から回り込み、敵を一人また一人と着実に沈めていく。
「――お二人とも、落ち着いてください。私が対応しますので」
その落差が、また笑いを誘った。
『上級者一人だけ完全に別の試合してる』
『カオスな二人を尻目に淡々と仕事するの草』
『このバランスの悪さが逆に見てて飽きない』
中盤、壁に頭から突っ込んだ犬耳の彼を、叶が慌てて引っ張り出そうとして自分まで壁にはまるという珍事も発生した。
「――動けん。誰か、助けてくれ」
「クリム様まで挟まってるんですか!?」
「……お二人とも、少々お待ちを」
氷の妖精の彼女が、呆れ半分、面白がり半分といった様子でこちらに駆け寄ってくる。
『壁ハメコンビ爆誕』
『初心者+中級者の悪魔合体で草』
『上級者さんの表情、多分苦笑いしてると思う』
息を合わせるまでもなく、経験の浅い二人の不慣れな動きは、逆にコメディのような味わいを生んでいた。壁に頭から突っ込んだり、味方を敵と誤認したり――そのたびにコメント欄が沸き、配信全体が笑いに包まれた。
一方、上級者枠の彼女は、そんな二人を静かにフォローし続けた。危なげのない立ち回りで、何度も土壇場を救ってくれる。
「――お見事だ。助かった」
「……いえ。お二人が前に出てくれるので、動きやすいです」
試合終盤、最後の安全圏で三人揃って生き残るという奇跡的な展開になったものの、勝敗を分ける最後の一戦で、犬耳の彼と叶がまたも息を合わせて同じ方向に逃げ出し、結果的に二人揃って敵の目の前に飛び出すという凡ミスを犯した。
「――なぜ、また二人揃って同じ方向に……」
「す、すみません……!」
「……お二人、息はぴったりなんですけどね」
氷の妖精の彼女の呆れたような一言に、コメント欄が大爆笑に包まれた。
『息ぴったりに事故る二人、才能』
『上級者さんのツッコミが冷静で逆に面白い』
『このチーム見てるだけで一日中笑える』
『初心者+中級者のカオスを上級者が支える構図で草』
『バランス編成、絶妙で笑う』
『これはこれで見てて楽しい』
試合が終わる頃には、初対面だったはずの三人の間に、確かな親近感が芽生えていた。
「今日は、本当に楽しかったです……! また、ご一緒できたら嬉しいです」
犬耳の配信者の言葉に、叶は素直に頷いた。
「ああ、こちらこそだ。良い縁だった」
氷の妖精設定の配信者も、小さく一礼した。
「……ありがとうございました」
後夜祭が終わる頃、叶はフィガロとシャーロットと通話で合流した。
「新しいチーム、どうだった?」
シャーロットの問いに、叶は苦笑しながら答えた。
「なかなか、賑やかだったぞ。だが、悪くない時間だった」
「私のところも、面白い方たちでした。界隈、広いようで、意外と繋がっているものですね」
フィガロの言葉に、叶も同意した。この大会を通じて得た縁は、フィガロとシャーロットだけに留まらない。界隈全体との、新たな繋がりの芽生えを感じていた。
「――今日は、本当に良い一日だった」
誰に言うでもなく、叶はそう呟いた。パソコンの画面の向こうで、三人はしばらく、その余韻に浸っていた。




