61話スクリム五日目
配信開始前、叶はふと、これまでの五日間を振り返っていた。
――一日目、索敵ミスで落ち込みかけた夜。
――二日目、高台の逆転劇に沸いた夜。
――三日目、噛み合わずに苦しんだ夜。
――四日目、軽口を交わせるほど打ち解けた夜。
そして今日が、五日目。
五日間にわたるスクリムも、いよいよ最終日を迎えた。
「今日で最後か。早いものだな」
フィガロの言葉に、叶もしみじみとした気持ちになった。この五日間、毎晩のように顔を合わせてきた三人だ。名残惜しさすら感じ始めている自分に、叶自身少し驚いていた。
「名残惜しいですけど、まだ大会本番が残ってますからね。今日も気を引き締めていきましょう」
シャーロットの言葉に、叶とフィガロは頷いた。
最終日は、これまでの集大成と呼べる内容だった。堅実な立ち回りと積極的な交戦、その両方を状況に応じて使い分ける柔軟さが、五日間を通して確かに身についていた。
「――右手、敵影あり。数は二」
「了解、こちらは様子見で」
「クリムさん、そのまま情報お願いします」
言葉少なでも、三人の意図は正確に伝わり合っていた。それは、五日間という短くも濃密な時間が育んだ、確かな信頼の証だった。
最終日の最後のラウンドでは、五日間の集大成と呼べる場面があった。終盤、残り四チームまで絞られた混戦の中、叶たちは正面からの撃ち合いを避け、地形を活かした迂回ルートを選択した。
「――西側から回り込めば、他チームの戦いに巻き込まれずに済む」
「賛成です。漁夫の利を狙いましょう」
読み通り、二チームが激しく撃ち合う隙を突いて、疲弊した敵を一気に仕留めることに成功する。
「――綺麗に決まったな」
「五日間の練習が、ちゃんと形になってますね」
結果こそ優勝には届かなかったが、その立ち回りには、初日には決して見られなかった洗練さがあった。
その後も、スクリムは五日間にわたって続いた。日を追うごとに立ち回りは洗練されていったが、それでも結果だけを見れば、五日間通しての成績はお世辞にも良いとは言えなかった。上位に食い込めた試合は数えるほどで、大半は中位から下位を彷徨う結果に終わっていた。
「――正直、数字だけ見ると、あまり良い結果ではないな」
最終日、全ラウンドを終えた後、叶はぽつりと呟いた。
「そうですね。でも」
シャーロットが、間を置いて続けた。
「五日前と比べたら、別のチームみたいに動けてます。数字には表れない部分で、確実に強くなってますよ」
「うむ、同感だ。勝敗の数だけを見て一喜一憂するのは、まだ早い」
フィガロの言葉に、叶は救われる思いがした。
スクリムの終了後、他の参加チームとの合同反省会が設けられた。ボイスチャットには、数十名の配信者たちが入り交じり、活発な意見交換が行われた。
その中で、叶たちのチームは何人かの配信者から声をかけられた。
「トライアドさんのチーム、索敵とサブオーダーの連携が的確で驚きました。特にあの高台の判断、真似したいくらいです」
見知らぬ配信者からの言葉に、叶は面食らいながらも礼を述べた。
「あ――ありがとう。二人の実力があってこそだ」
謙遜ではなく、心からの言葉だった。フィガロの冷静なサポートと、シャーロットの確かな指揮がなければ、あの判断が結果に結びつくことはなかっただろう。順位だけを見れば地味な五日間だったが、他チームからそう評価してもらえたことは、素直に嬉しかった。
合同反省会が終わり、三人だけの通話に戻ると、しばしの沈黙が流れた。それは、気まずさからではなく、五日間の余韻を噛み締めるような、心地よい沈黙だった。
「本番まで、あと一週間か」
フィガロがぽつりと言った。
「短いようで、長いですね」
シャーロットの言葉に、叶も頷いた。
「――成績は振るわなかったが、今日で確信した。俺たちなら、悪くない戦いができる」
その言葉に、二人が同時に笑う気配がした。
「その意気です、クリムさん」
「うむ、期待しているぞ」
「――それと、この五日間、本当にありがとう。二人と過ごした時間は、俺にとって、かけがえのないものになった」
叶が素直な気持ちを口にすると、シャーロットが少し照れたように答えた。
「な、なんですか急に。でも……私も、同じ気持ちです」
「うむ、俺もだ。良き五日間だった」
窓の外はすっかり夜が更けていたが、叶の胸には確かな手応えと、それ以上に温かい絆が残っていた。膝の上のラヴィが、労うように鳴き声を上げる。
「見てろよ、ラヴィ。本番、頑張ってくるから」
その夜、叶は久しぶりに早めに布団に入った。明日からの仕事、そして本番に向けたラストスパートに備えて、体調を整えておく必要がある。
ラヴィが、いつものように布団の隙間に潜り込んでくる。その温もりを感じながら、叶は静かに目を閉じた。
(――大丈夫だ。俺たちなら、きっと)
大会本番まで、残り一週間。五日間の濃密な時間を経て、三人の絆は、確かな戦力へと育ちきっていた。




